牧 中編

□シネマティック Rival 05
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こうして麻矢との間に何も問題はなく、穏やかな関係が続いていても、星野の存在はどうにもこうにも引っ掛かって仕方がなかった。牧の懸念が解消される度に、なぜか次から次へと新たな気掛かりが転がりこんでくる。
身構えていると、何も起こらず、警戒を解けば、その瞬間に後ろから不意打ちをくらうような。再び体勢を整えようにもすでに遅い。自分は何かに翻弄されている。こんなことは初めてだった。

今回も── あの日、麻矢の家に行って良かったと安堵したかと思えば、週末には彼の知り合いが関わった商品の発売記念パーティーに一緒に行くことになったというではないか。女性同伴でないとカッコがつかないからと頼まれたらしい。ちょっと安心したら、これだ。
飲みにいってもいいとは言ったが、それ以外を許可した覚えはない。だが麻矢も世話になった手前、快く返事をしてしまったそうだ。それを牧が留め立てするすべはなく、嫌な予感しかしなかった。



「それで、牧さん、麻矢さんとは最近どうですか?」
「お、例の元同級生の彼女か」

飲み始めてから1時間ほどたった頃、ふいに神が好奇心をありありと浮かべて聞いてきた。青山界隈の奥まったところにある、隠れ家的な雰囲気だが気取らない居酒屋。ここの炙り〆サバでビールが飲みたいと藤真のリクエストだった。

「どうって、どうもしないが」
「ふーん。神は彼女のこと元々知ってんだろ?」
「それに夏のOB会でも会いました」
「オレも会ってみてーな。あとでここ呼んでよ」

なんの邪気もなく藤真は言った。
この時は──

「今日は時計だかの発売記念パーティーに行ってて無理だな」
「ん? それってもしかしてヴァンクリの?」

ヴァ……? 何のことかわからない。が、どうやらブランド名らしく、そのパーティーの特別ゲストとして仙道が招かれているとか何とか。話が驚きの方向へ向かっていく。

「それ、そこの表参道でやってんぜ。よし、終わる頃に覗き行ってみるか」
それはマズい、よろしくない。
牧の動作が一瞬止まる。
「待て。いや、だから……向こうも人と一緒だから、気を遣わせてしまうだろう……」
「会社の人とですか?」
「そうではないが……友人のひとりとでもいうか……」
「知ってんの? ならいいじゃん」
「知ってるといえば、まあ、そうだが」

牧の煮え切らない返答に神が不思議そうな顔をする。藤真はニヤリとしながら、身を乗り出した。

「なんだよ、言えねえ話か? あ、わかった、その彼女の友人とデキちまってるとか? 二股かけてんだろ」
「そんなバカな。相手は男だ」
「へえ、彼女、他の男と一緒なんだ。牧的にはいいのか、それ」

思わず口を滑らせた。いや、もしかしたら誘導されたのかもしれない。鎌をかけられた。
藤真は悪びれた様子もなく、むしろ愉快そうにこちらを見上げてくる。始末に悪いのは、かつて味方だった神まで困ったような顔をしながらも、自分が話しだすのを待っているからだ。いったいどうしてこうなってしまったのだろう。牧は諦めの心地で、長く息を吐き出した。
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