鬼徹【novel】

□六十八夜の拙さに 唐茄
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梅の蕾が顔を出し、地獄にも柔らかな色彩がぽつりぽつりと色付く、暖かい木漏れ日が差し込む季節となった。


「からうりぃ〜」

平行線の遥か彼方、淀みない青が空を塗り潰す。

「なんだよ、」

めんどくさそうに唐瓜は読んでいた本から目を離し茄子に目をやる。

「暇だよぉ」

「お前絵描いてたじゃん」

「飽きた〜」

地獄での長期休暇が始まり、唐瓜は茄子の家でくつろいでいた。

地獄にも労働基準法のようなものはあり、一年を通して一定の休みをとらねば罰せられ、働きすぎで放浪してしまうというなんとも二律背反なことだってある。

「休みなんだし日頃だらけられない分だらけようぜ」

「別に俺はいつもだらけてないぜ?」

本能のまま生きる茄子には怠る、楽をするなどという考えはない、というか出来ない。逆に言えば努力するということも出来ないのである。どこまでも自分の本能に従順な茄子は、自由奔放勝手気ままに生き、上司から何か頼まれたらその物事に取り組む。もちろん、自分のペースは崩さずに、だ。したいことをして、よく言えば最も人間らしく生きていると言える。まあ実際は鬼なのだが。

「うりゃ、」

ベッドに転がり本を読んでいた唐瓜の上に茄子がダイブする。ギシ、と大きな音をたててベッドはスプリングした。

「ちょ、おま、重いだろ」

「そんなん読んでないでかまえ」

「あーはいはい」

小さい頃からお互いを知る二人は声は出さなくとも互いが互いを信じ合う仲だった。散々喧嘩もしたが、そのひとつひとつは今となっては良い思い出だ。

「よく遊んだよなー、茄子んちで」
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