Book4 t3

□Beauty and the Beast 5
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「ミュージック、スタート!!」


洋服ダンスの扉を開けた途端、そんな大きな声が響いて部屋の中がキラキラとした照明で輝き始めた
どこにそんな光源があったのか不思議に思ったが、その正体はすぐにわかった
なぜかタンスの中に大きなミラーボールが設置されていた

洋服ダンスの上半分のハンガーラックスペースはほぼミラーボールで占められており、
洋服を入れられるスペースはないし、そもそも服が一着もかかっていない
これでは洋服ダンスというより、ミラーボール収納タンスのようだ

ミラーボールは部屋の照明をキラキラと反射して部屋の中の空気をパーリーピーポーな雰囲気に変えている
ビートの効いた音楽が爆音で流れ始め、そのタンスはタンスとは思えない可動具合いで踊り狂いだした
タンスは自分が動くたびに下半分の引き出し部分が開いたり閉まったりしているのにもかかわらず、
それらを全く気にする様子はない
引き出しに入っていた服を部屋中にまき散らし、
タンスは一心不乱に踊り、楽しそうに叫んでいる


ティファニーはどうすればよいのかわからず立ち尽くした

ここは私の部屋だと案内されたはずなのに、
魔法の家具たちが至る所で好き勝手していて身の置き所がない
さっきまでピンクの部屋だと感動していた部屋の雰囲気はその面影を失くし、
既にパーリーピーポーなクラブハウスへと変貌を遂げている



一旦、
ちょっと一旦落ち着こ…


目に眩しいこの部屋から逃れるためドアに手をかけようとすると、
私が何かをする前にドアが勝手に開いた
開いたドアの向こうには、ポットとカップの載ったティーカートがある


「あら?お出かけですか?」


可愛らしいポットがそう声をかけてきた
どうやらこのポットも魔法のポットらしい
大きな鼻のような注ぎ口の両側に可愛らしい目があり、
その下には上品な口元がある
上蓋は可愛い模様が描かれていて帽子のようにも見える


ティ「え?
えぇ…少し外の風に当たろうと思って」


「外は寒いよ?
お茶を飲んで少し温まらない?
とびきり美味しい紅茶をご馳走するから!」


今度はポットの横にあるティーカップがそう言ってくれた
ティーカップは少しダークな色合いで艶やかな光沢を見せており、
見るからに高級そうなものだった
しかし、ティーカップ自体はそんなことを感じさせないようなフレンドリーさ
カップの側面にある顔のように見える模様は、好奇心ランランに私を見つめている

ポットはティーカップに熱々の紅茶を少しだけ注ぐと、
「ほら、良い香りでしょ?
お部屋でゆっくりご馳走するわ」
そう言って微笑んだ
美味しそうな上品な香りが辺りに漂い、心をほっと落ち着かせる


ティ「ふふふっ お気遣いありがとう
でも、そうしたいのは山々なんだけど、今部屋の中がそんな雰囲気じゃないっていうか…」


言葉を濁して苦笑いすると、ポットはすぐに何かを悟ったような表情になり、
ティーカートごと私の隣を通り抜けて部屋の中へと入った
そして、鼻のような注ぎ口から蒸気を噴出させ、ピーーッ!と甲高い音を鳴らす


「ヒョヨン!何やってんの!
部屋中が服だらけじゃない!
それから眩しい!今すぐそのミラーボールをしまいなさい!
いい加減にしないとそのミラーボールをもぎ取るわよ!」


ヒョヨンと呼ばれた洋服ダンスはダンスしていた体勢のまま一時停止状態になり、慌ててタンスの扉を閉めた
ポットは厳しい表情のままヒョヨンを睨みつけ、ヒョヨンはシュンとして体勢を直す
しかし、まだ重低音の音楽は止まることなく流れ続けている

すると、どこからともなく「フォーーーーーーー!!」という叫び声が聞こえ、
シャボン玉のような泡がふわふわと目の前に漂い始めた
犯人はすぐにわかった
ポットのすぐ後ろにいた
っていうか、ポットと同じティーカートに乗っていた

ティーカップは、自身に注がれていた紅茶を器用にシャボン玉のように泡立たせ、
それをぷかぷかと部屋中にまき散らしながらビートにノッて興奮気味に叫んでいる


あれ?
その紅茶ってさっき「とびきり美味しい紅茶をご馳走するから!」って言ってくれてたやつ?
私が飲む紅茶?私を温めてくれるはずの紅茶?


泡になった紅茶のシャボン玉が割れるたびにさっき香った上品な香りが辺りに広がる
心を落ち着かせる素敵な香りだったが、この状況ではとてもじゃないが落ち着かない

そして案の定、再びポットの雷が落ち、部屋中に甲高い蒸気音が響いた





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