Book5 s2

□光の雫 透き通る青
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Jessica side



ファイナリストとしてオーディションを終えた後、仕事が山のように舞い込んだ
今までちまちまと仕事をこなしていたのが夢だったのかと思うくらいに目まぐるしく過ぎていく日々
だけど、仕事の楽しさを知った今ではその忙しさもさほど苦ではなかった



シカ「え?またパーティーですか?」


社長「ごめんね、そうなの
今度のはショーのスポンサーが主催だから私も行くつもりだったんだけど、
その日は別の仕事でどうしても行けないのよ」


シカ「でも、どうして私が…」


社長「先方からの強い要望なの
ジェシカに是非とも出席してほしいって」


シカ「そうですか…」


社長「あなたに出席させてパーティーに箔をつけたいのかもしれないわ
まっ、あなたがそんな存在になったっていうのは誇らしくもあるんだけどね」


つまりは私の存在というより、
私が出席したという事実が欲しいということだろう

最近はそんな主旨のイベント出席が増え、誇らしさと共にどこか虚しさも感じていた
いつの間にか私の名前だけが独り歩きしている
社長の言うようにそう言ってもらえるまで評価してもらっているのは嬉しいけれど、
中身のない人形を扱う様な温度の感じないたぐいの仕事が増え、
私の中で表に出せないフラストレーションが溜まる一方だった





パーティー当日、メイクをしてドレスを着てアクセサリーで自分を飾っていく
ドレスもアクセサリーも仕事の一環として指定ブランドのものを着こなした

正直、アクセサリーは違うものの方が合いそうなのにとちょっと残念に思っていた
私の私物のアクセサリーの方がこのドレスによく似合ったかもしれない
それはあのファイナリストで身につけて以来ここぞというときにはいつも着ける幸運のお守りで、
私の一番のお気に入りだからそう思ってしまうのもあるのかもしれない
あのペンダントはいつも私と共にあり、私の魅力を引き出してくれる

しかし今日のパーティーは仕事の一環でブランドの広告も兼ねている
残念ながらその考えは頭の隅に追いやり、予定のものを淡々と身につけた

その後、事務所の車に乗り込んで出発を待っていると、
マネージャーが走ってやってきて折角乗せた私の荷物を車の中から持ち出しながら申し訳なさそうに言った


マネ「ごめん、今日のドレスとアクセサリーが急遽変更になっちゃった…」


シカ「えっ?どうしてですか?」


マネ「私もよくわからないんだけど、どうやら先方の要望らしくて」


シカ「はぁ〜?今更?
それなら早く言ってくれればいいのに」


マネ「ほんとね、こっちも本当に困っちゃうわよ
でも、社長に直接連絡きたみたいでね」


シカ「…わかりました
すぐに着替えます」



誰にもどうにもできない状況なんだと悟り、しぶしぶ車から降りて着替えに戻る
ドレスに合わせてセットした髪も台無しになってしまうかと思ったけれど、
先方が準備したらしいドレスもアクセサリーも個性が強すぎず、だけどエレガントで少しのアレンジで済んだ
そして、言ってしまえば変更後のドレスやアクセサリーの方が私の好みにとても合っていた

新しいドレスとピアスをつけると、私は不思議な既視感に囚われた
まるで初めからこちらを予定していたんじゃないかと思うほど私のためにあつらえられたようなドレス
このドレスには私物のペンダントの方が格段によく合うと思った

「急な変更に応えてあげてるんだから少しくらいいいわよね」
そう勝手に言い訳をつけてペンダントだけは用意されたものではなく私物のものに変える
その後渡されたピアスはお気に入りのペンダントと雰囲気がよく似ていて、
私がこれを身に着けるのはさながら運命のようだと感じてしまった


マネ「こんなこと言っていいのかわかんないんだけど…こっちのドレスの方が良かったんじゃない?
アクセサリーもすごく似合ってるわ」


シカ「ふふっ 私もそう思います
なんだか私のために作られたんじゃないかって思っちゃうくらいしっくりくる」


マネ「金持ちのわがままを聞いてこんなに得することもあるのね
勉強になったわ」


シカ「あはははっ」



それから車で会場に向かったが、
その日はパーティーに向かう前からあまりに慌ただしかった
仕事だから顔には出さないように気を付けたが、会場に着いた頃には既に私は疲れを感じていた





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