長編パラレル 1作品
□VOICES-
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"Consciousness"
「なんだ、また聴いているのか。」
ローは少し面倒な口調で言った。
部屋に流れるこの曲が嫌いだからではない。この曲を聴いているとき、必ずこいつは何かをしたがっていると分かるからだ。
こいつは、そういう奴だ。
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「な、」
歌い出した途端、観客からのどよめきと歓声が上がった。
今までに聴いた事のない声。中性的な少年の声で、力強く驚くほどの深い魅力がある。
ふざけた面を被っている姿には到底考えられない音楽性。完璧なリズム感、響きわたる音階。
サックス、トロンボーン、トランペット奏者が驚嘆しながら演奏しているのが、客席にいるゾロにだけ伝わる。
間違いない、バンドはボーカルがどんな奴か全く知らされてなかったんだ。ギターを弾くあいつ以外は。
「あのバカ、なにニヤニヤしながらやってんだ。まわりが動揺して当然だろうが。」
しかし皆、ギタリストに一切の心配を与えることはなかった。根っからの音楽バカで、アクシデントなど軽くノッてかますような奴らだからだ。
それでも、だ。
このボーカルの支配力はなんだろうか。
皆、音に飲まれないよう必死なのは事実だろう。それを悟られないだけの実力があるのだが、このボーカルの歌声はまるで伴奏を挑発しているようだ。
どうだ、もっと、もっと演ってみろ、と。
実力以上の演奏をしている?
いや違う、あいつらはそういう神頼みみたいな感じで演ってない。これは間違いなく、あいつらの実力の最大値だろう。それを引っ張り出すあいつは一体何なんだ?