Promise

□02
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「そう、ですか。話せないことは話さなくて大丈夫です!」

バーボンさんが…零にいがヘラっと笑って言ったから、私も同じようにヘラっと笑ってそう答えた。

「…気を遣わせてしまって、すみません」

「全然!大丈夫です!」

心なしか、そう言ったバーボンさんはシュン…としてひどく落ち込んでいるように見えた。

「僕は料理を作るのに戻りますから、ルシアンは寝ていてくださいね」

「わかりました!お言葉に甘えさせていただきます!」

バーボンさんは、キッチンへ戻って料理を再開した。

…この状況、少しだけ居にくいなぁ。
相手は実の兄で、ほんとうはお互い正体がわかってるけどお互いにそれを言わない。




なんで、零にいは言わないのかな…。






ビッチになった私を、犯罪者になった私を、零にいは嫌ってるのかな…。






そう思ったら、少しだけ涙が出そうになってきた。
















…ハッ!


気がついたら目の前にあるのは天井で、私はソファで仰向けになって寝っ転がっていた。

「おはようございます、ルシアン」

「え…私…」

「僕が料理を作ってる間、寝てしまってたんですよ。といっても、ほんの数時間ですが」

机の上には、バーボンさんが作ったであろうご馳走が2人分、出来上がっていた。

「ご、ごめんなさい…!いつのまにか…」

「いえ、大丈夫です。きっと疲れていたのでしょう。起きたばかりでもご飯は食べれますか?」

「はい…。いただきます!」

「どうぞ召し上がってください」

そう言って、バーボンさんはニッコリと笑う。

私は緊張しながらも、バーボンさんが作ったミートソースパスタを一口、パクリと食べた。

「……っ」

その瞬間、記憶の中に流れてくる昔の思い出。





『零にいー!!今日のご飯はなにっ!?』

『何にしようかなぁ。とりあえずパスタにしようと思ってるんだけど…瑠奈はパスタなら何がいい?』

『う〜ん、ミートソースかな!ずーーっとずっと前に一回だけ……ままが、作ってくれたから………』

『……そうだな。ミートソースは、母さんがくれた…大切な料理だもんな』

『うん!ままだけじゃなくて、零にいも作ってくれたら、ちゃんと"家族の料理"って感じがするね!』

『…そうだね。家族、か…』

『…零にい?』

『俺にとっての家族は、瑠奈だけで十分だよ。母さんたちは…俺なんて見てないし、要らないだろうから』

『零にい………そんなこと………』

『あるよ。母さんも父さんも、俺のことは見てない』

『じゃあ!私が、私が零にいのこと見てる!零にいは、私から絶対絶対離れちゃダメ!見離しちゃダメ!見離しても、私が何回でも零にいを見つけてみせる!!!』

『…っ、瑠奈、ありがとう』

『うんっ!!零にいは、私の大切な家族だよ!!いつも私を育ててくれてありがとう!!零にい大好き!!』






ミートソースパスタは、私たちの家族の思い出。

母親の愛情を少しだけ感じられる料理。

零にいと一緒にいるって誓ったきっかけの料理。




「……ふぇっ…ぇえん…っ」

「…!?ルシアン、どうしましたか!?」

「なんでも、なんでもないです…っ、…うぅ…」

なんで、この料理を出してくるの、零にい…。

懐かしくて、戻りたくて、たまらなくなっちゃうのに。

「…少し、意地悪をしすぎたか」

「え…?」

「いえ、なんでもないですよ」

仮面の笑みでそう言うバーボンさん。

…本当は、わたしが動揺してるの、知ってるくせに。

私はミートソースパスタを全て食べ終え、バーボンさんは自分の自宅へと帰ろうと玄関に向かった。
当然私もバーボンさんを玄関までお見送りするため、立ち上がる。

「本日はお邪魔しました」

「いえ!むしろ私の方がお世話になって…ありがとうこざいました!」

「またご飯でもなんでも作りにきますので、気軽に電話してください」

「はい!」

「私はあなたの味方ですから」

それを聞いた瞬間、私の思考は停止した。


味方…ね。


「…それは、どう言う意味なの?バーボン…」

私の口から出た声は、いつもの数倍低くて、冷たい音をしていた。
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