”違う”…知ってるそんなこと。
□第21話 無垢(ME)
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一松side
「どうする?これから」
トド松の一言に誰も答えなかった。
答えられるわけがない。
だって、結局帆乃香が傷ついていたのは俺たちのせいだってわかったんだから…。
俺たちなんかじゃ、帆乃香を救えないって。
帆乃香の辛い記憶は、俺たちで構成されているんだから。
…ん?辛い記憶……?
もしかしたら…
「…あのさ、俺に提案があるんだけど……」
シンとしている部屋の中、俺の小さな声が響く。
「何?この最悪な状況を覆す方法があんの?」
「……うん、一応……」
チョロ松兄さんに言われ、俺は少し自信なさげに答える。
「…でも、確実に帆乃香も俺たちもみんな楽になると思う…」
「…どんな方法なんだ?」
「それは…デカパン博士に記憶をなくす薬を作ってもらうんだ…」
「…記憶?なんの記憶を消すの?」
カラ松兄さんに尋ねられ、トド松に質問された。
まぁ、普通そこは疑問に思うよね。
「飲むのは帆乃香で…無くす記憶は俺とおそ松兄さんとあの男たちに強姦された記憶と、俺たちに無視された記憶…」
「「「「「え……」」」」」
「で、でもそんなことしたら、帆乃香の中学2年生の頃の記憶がすっかりなくなっちゃうよ!?」
「うん、そうだよ十四松。だからそこはデカパン博士に頼んで、"嘘の記憶"を入れてもらうんだ」
「嘘の記憶?どんなものなんだ?」
「当たり障りない普通の中学2年生の生活。今までの俺たちがいて、学校でいじめを受けることもなくて…そんな記憶を帆乃香に植え付ける。つまりは、俺たちで帆乃香の穏やかな中学2年生を想像して、それを元にデカパン博士に作ってもらう…」
「…なるほどなぁ。そしたら帆乃香は辛い記憶はもう二度と思い出さず、俺たちも嫌われる要因がなくなる。いいんじゃね?」
おそ松兄さんがうんうんと頷く。
「俺も…いいと思う。帆乃香自身に傷ついて欲しくないし…」
「俺もかなぁ…」
「僕も…」
チョロ松兄さん、十四松、トド松が賛成する中、カラ松兄さんだけは違った。
「俺は反対だ」
「あ?なんでだよクソ松」
「それって要は帆乃香を騙すってことだろう?真実を知らないなんて….そんなのおかしい」
それを言われ、俺は少しだけ何か胸に引っかかる。
だけど、すぐにトド松が口を開いた。
「あのね、カラ松兄さん。時には優しい嘘も必要なんだよ?帆乃香はさ、犯されて記憶を失うくらい傷ついてたんだよ?思い出したくないの。だったら、その記憶を消してあげて楽にした方が僕は幸せだと思う。傷つきたくないもの」
トド松にそう言われると、カラ松兄さんは言葉をなくしたのか、押し黙った。