捧げ物

□常識人が殻を破る瞬間(小森)
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*常識人が殻を破る瞬間*


「森山先輩、聞いて下さいッス!」
「お前の飼い主は俺じゃないだろ。」
「それはそうッスけど…!」
「飼い主は認めるんだ。」

練習が始まる少し前。

夏の日差しが厳しい季節になり、森山が汗をかいた制服を脱いでいると、そこに黄瀬がやってきて話を聞いて欲しいとせがんできた。

森山的には自分よりも黄瀬の飼い主である笠松に聞いたほうがいいと思うのだが、それじゃ駄目らしい。

「お前ら騒いでないで早く着替えろよ。」
「そう言うなら笠松がこいつをどうにかしてくんない?」
「でも黄瀬は森山に聞いて欲しいんだろ?」
「そうっスよ!」

結局笠松は“練習遅れんなよ”とだけ言って、黄瀬を放置して部室を出て行った。
黄瀬の悩みというのは、大抵下らないことが多い。

「最近笠松先輩とヤろうとすると、笠松先輩凄い嫌がるんスけど…俺、何かしたんスかね?」

黄瀬と笠松の事情なんて聞きたくもないし、知りたくもない。
笠松から聞く分は別になんとも思わないのだが、黄瀬から聞くと聞きたくないから不思議だ。

「笠松が嫌がるのはいつものことだろ?つーか黄瀬さぁ、いい加減俺に相談してくるのやめろよ。」
「だって相談出来るの森山先輩くらいしかいないじゃないッスか。同性と付き合ってるのは俺らと森山先輩達くらいだし。」

だからといって黄瀬に懐かれると、笠松の視線が痛いからやめて欲しい。
森山的には笠松と黄瀬が話し合って解決するのが一番早いと思うのだが。

「じゃあ俺じゃなくて小堀に聞いたがいいんじゃないのか?」
「小堀先輩には純粋なままでいて欲しいんス!」
「お前小堀と付き合ってるのは俺だってわかってる?」

小堀が純粋なら俺だって純粋なわけだ。
黄瀬は相談してきた癖に“えー”と言いながら結局笠松のところへ駆けて行く。
宮地ではないが轢きたいと思わずにはいられない。

「森山。」

後ろから声をかけられて森山が振り返ると、小堀が怒ったようにして森山の横に腕をついていた。
ロッカーと小堀の間に挟まれてしまえば森山に逃げ場はない。

「小堀?何怒って…。」

こんなに怒っている小堀を見るのは付き合い始めて、というより出会って初めてだった。

これから練習が始まる。
早く着替えなきゃいけないこの状況で小堀が何故こんな行動をとるのか。

「森山。一応聞くけど森山は俺と付き合ってるってちゃんとわかってる?」
「わかってるけど…。」

小堀は常識人で、優しくて。
だからスルリと制服の中に突っ込まれた手に一瞬反応が遅れてしまう。

「小堀ストップ!ちょっと落ち着いて!」
「森山が思ってるほど、俺は優しくもないし純粋でもないよ。」

“俺も男だから”と言って困った顔をする小堀に、さっきの会話を聞かれていたことを知った森山は変な冷や汗をかいていた。
小堀の目はまるで完全に男のそれ。

「小堀、ここ部室だから…っ!」
「森山、ごめんね。」

ごめんねって言うならやめて欲しい。


正直その後の森山の記憶は無い。
いつの間にか小堀と正座させられて、部員全員から説教を食らっていた。
唯一、わかったのは腰が痛いってことで。

でもまぁ、小堀と怒られるならいいかなんて。
思う自分は末期症状だと思う。



End


***
あとがき

「Blue Gloria−蒼の栄光−」の企画サイト様に提出。

小森で嫉妬甘でした。

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