捧げ物

□意外な優しさを見つけて(花黒)
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*意外な優しさを見つけて*


花宮真という誠実そうで華やかな名前とは裏腹に、花宮は中学、高校時代と“悪童”の名で知られて有名だった。
今思えば、あれは若気の至りだったのだと思う。

「…花宮さん、ですよね?」
「…お前、黒子か?」
「はい。正式には黒子先生ですけど。」
「…相変わらずムカつく野郎だな。」

黒子の目の前にいる男こと花宮真は、黒子の働いている保育園に同僚の子供だという紘(ひろ)くんを迎えに来たという。

紘という男の子は黒子の担当するクラスの子ではないため、鉢合わせすることはなかったが、今までにも何度か花宮が迎えに来ることあったらしい。
昔の花宮なら同僚の子供なんて迎えに来ることはなかっただろう。

「黒子先生、さようなら!」
「はい、紘くん。さようなら。」

紘くんはとても花宮に懐いているようで、花宮の手を引きながらはしゃいだように歩いて行く。

先ほど花宮の話を聞いたとき、黒子には花宮のいう話は少しおかしいように感じられた。
頻繁に花宮がつれて帰るというのはいくら仲の良い同僚とはいえ、おかしくはないか?

そんな黒子の小さな疑問は数日後に解けることとなるのだが、黒子はそれ以上深く考えようとはしなかった。

***

花宮と再開してから数日後の夜。

「黒子先生、すいません。」
「?どうかしましたか?」
「それが…。」

突然声をかけられたのは紘くんのクラスを担当している女の先生だった。
その先生が言うには、紘くんを迎えに来れないと保育園に連絡があったのだという。

その理由は親の離婚。
紘くんを保育園に預けている間に離婚が決まったという話だった。
まだ養育費がかかる紘くんをどちらも預かりたがらないのだという。
酷い話だ。

「困ります…。ここは保育園であって保護施設ではないのに…。」
「親御さんを説得するしかないでしょうね…。」

黒子はそう言いつつも、それでは紘くんが幸せになれないとわかっていた。
しかしわかっていても、黒子自身に紘くんを養えるような給料はない。

「すいません、紘はいますか?」

そんな中、息を切らしながら保育園に駆け込んで来たのは、花宮だった。

黒子も担当の先生も唖然とする中、花宮は紘くんがいる教室に入っていく。

「ちょっと待って下さい、花宮さん!その子は花宮さんの子供ではないんでしょう?紘くんのご両親は紘くんを預かりたがっていないって…。」
「俺が育てる。」
「育てるって…簡単な話ではないんですよ?」
「ごちゃごちゃうるせえよ。」

花宮は黒子の顔にタオルを押し付けた。
そのとき初めて黒子は涙を流していたことに気づく。

「俺もお前もおんなじ気持ちだろうが!心配しなくても俺には家族作っても養えるくらいの金はあるし、こいつは幸い俺に懐いてる。」
「…花宮さんの親御さんには。」
「説得する。」

紘くんは花宮にひっついて嬉しそうに笑っている。
花宮は紘くんの前に屈むと、紘くんに真剣な眼差しを向けた。

「紘、お前は今日から俺の子だ。俺の家に帰って、俺の家で生活する。」
「…パパとママは?」
「あいつらのところには帰れない。」
「ちょっと、花宮さん!」
「黒子、うるせえよ。子供にははっきり言った方が良いんだから。」

紘くんは泣き出したが、子供なりに察していた部分もあったようだった。
この調子なら、一時泣けば花宮と一緒に笑いながら帰るのだろう。
これからは花宮の家に。

「紘、今日からは俺が父親な。そしてこいつが母親。」
「僕は花宮さんと夫婦になった覚えはありませんが。」
「黒子先生がママ?」
「そうだ。」
「僕の話も聞いて下さい。」

紘と手を繋ぎながら、花宮は“やっぱ母親だろ”と黒子に言う。

「お前、紘のこと心配して家に来るだろうしな。」
「まぁそれは否定出来ませんけど…それだけの理由ですか?」
「あぁ。」
「極端ですね。」

それだけで母親と呼べるのなら、紘くんの母親は随分多くなりそうだ。
紘くんはニコニコ笑いながら、“黒子先生、さようなら!”と元気に走って行く。

「じゃあな。」
「花宮さん。」

“紘くんをよろしくお願いします”と黒子が言うと花宮はふんっ、と鼻を鳴らして帰っていく。

それから1ヶ月も経たない内に花宮の恋人になって、本当の母親のようになってしまうことを黒子はまだ知らない。



***
あとがき

「本当の彼」の企画サイト様に提出。
花黒で甘々でした。

付き合う前になってしまいましたが、一応甘々ということで…(汗

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