小説

□リンカダンカ
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日常
この言葉を聞いた時普通の高校生はこう描くであろう―――朝起きて、食事をすませ、身支度をし、とりあえず学校へ行って、そのあとは特に何もなければ存分に自由時間をもてあます。特例としてテスト期間は慌てて勉強をしだすこともあるが、それを除けば風呂に入って夜更かしをするだけ。
そんな毎日がなんら変わることなく平和に続くことが日常
ただしそれは普通の高校生忘れてはならない
普通があるのならば逆を
平和があるのならば逆を
彼らは今日も戦わねばならない。
自らの領土ーーーーつまり彼らの世界で言うところのシマを守り奪い合わなければ組は繁栄することが不可能なのだから

そしてシマの縄張り争いをする集団を組と呼ぶ
そんな数ある組の中のある一つ組の組長は目をつぶり何かを悟る

「潮時かの」
老人は自らの白髭を撫でる。するとまだ成人にも満たない青年があわてふためく
「そんな…冗談は止めて下さいよ!組長…あんたは俺たちより約60年も生きてるんだぜ!?あんたはこの世界の厳しさを一番よく知ってる… 。 ただでさえ縄張り争いが激化してるっつうのによ…」
青年は今にもうなだれそうな勢いだった。彼にはたくさんの傷痕が体中あった。特にここのところよく傷が増えたような。
老人はそんな彼の体をじっと見つめる。
「…確かに争いは日に日に増しておる。それにお前の言うとおりこの世界でくぐり抜けた激戦は当然わしの方が上じゃ。だが、わしも今年で70じゃ。この世界ではなかなか長い組長歴じゃ。それに…」
それまで淡々と語り続けていた老人の目に鋭い光を青年に向ける。
「貴様らは反対しておるのじゃろう?わしの孫に組を継がせるのを」
「…これだけは譲れません。いくら組長の命令でも」
青年は老人に怯みもせずに断言する。
「俺はあんたより断然若い未熟者の18です。でも誰よりあなたの近くにいて誰よりあなたに近づこうと努力したか…俺があんたの隣と言う場所を獲得したのにどれだけ努力したか…ソレをまだ16のガキにやすやす渡せるほど俺はお人好しじゃないんでね」
互いに年の差など旗からみれば分かるのに彼らはじっとにらみ合う。

「そうじゃのう」
老人はふいに不敵な笑みを浮かべた。
「どうやらお前だけじゃないみたいだしのう?わしの意見に反対しているのは…
だったら試してみたらどうじゃーーー弘之ーーわしの孫を」

弘之と呼ばれた青年も不敵な笑みが浮かんだ。

弘之と呼ばれた青年も不敵な笑みが浮かんだ。その目なは並々ならぬ闘志と言う炎が揺らめいていた。


「じじぃもとうとう隠居か」
けたけたと笑う一人の青年がいた。
「血筋的には今度は俺が組長を継ぐーーー。いやぁ、今から腕がなるぜ!!」
こきりこきりと指を鳴らす「別に候補はてめえだけじゃねーよ。一郎… 俺も候補だぜ?」
一郎と呼ばれた青年は眉を潜めた
「てめえはお呼びじゃねぇよ!!じじぃは俺を挙げてんだぜ!てめえはじじぃによばれもしなかったから候補じゃねぇよ…そもそもよ…


女が組長なんかつとまるかよっ…!!凛花っ…!!!」


凜花と呼ばれた少女は真っ赤になって立ち上がる。
「ふざけんなっ…!!!
おんなだからって組長がつとまらねぇとか冗談じゃねぇよ!!俺だってお前と双子って時点で候補なんだよ!!じじぃの言い分なんか知らねぇよ!!」
「…おい、じじぃは組長なんだよ!!だから決めんのはじじぃだっ!!女の分際でてめえはひっこんでろ!!」
二人は猛烈な勢いを互いを睨む。その場にもし人がいるならば誰もが逃げたに違いない。
「…やんのか?」
「…しばかれてぇのか?」
今にも互いを襲いかかろうと飛び込もうとした次の瞬間ーー
「貴様らぁ、ええ加減にケンカしとんじゃない!!」
深い声を上げた白髪の老人を一郎と凜花はきょとんと目をまるくしたが、すぐに威圧感のある鋭い目付きに変わる。
「…おい、くそじじぃ。タイマンに水さすんじゃねーよ。」
「これは俺と凜花のケンカだぁ。くたばりぞこないのじいさんはそこで見ていろ」

「くたばりぞこない?ふざけているのは貴様らじゃろう?今の組長は誰だと思うおる?このわしじゃぞ?そんなわしのいうことがきけんのか?」

三者三様にガンを飛ばしあう。彼らの回りがさきほどよりもピリピリと逆立っていく…
「先代の組長さんは願い下げだぁ。あとはこの一郎様に任せな」
「およびじゃねんだよ?ひっこんでろ。くそじじい」
二人は先ほどのケンカのことも忘れて組長と呼ばれた老人にものすごい勢いで同時に飛びかかったーー
「あのくそじじぃ…俺に家督を継げだのといっておいて…ふざけんなっ!!」
ガンガン壁を叩いて一郎は怒りまくっていた。
とはいえ返ってくるのは静寂だけ、それどころか現在の組長にやられた傷が余計疼くだけであった。
「・・・もっと強くならなきゃならねぇ」
ポツリと一郎は呟く。
しかし、実際は一郎の言うとおり自分がこの組の頭になるということは先代の組長を超えることーー自分の祖父の総一郎をこえなければならないということである。
それに一郎が強くならなければならない理由はもう1つあった。
自分が組長になることに不満を抱いている者が多すぎるということだ。
彼らは一郎を甘くみていた。彼らは一郎をただの親の七光りだけでしかみていない。一郎を軽蔑するような目で見ていた。それは今に始まったことではなく幼い時から。
もう自分はあの頃とは違うと彼らに自分の強さを見せつけねばならない。そうでなければ組長にはなれないとわかっていた。
一郎は自分の拳を壁に一発殴りそしてゆっくりと息を吐くーーー
「おそらくあのくそじじぃが引退するのは時間の問題だとしたら時間はねぇ。近いうちに内戦がはじまっちまう。それまでに天下をとるためにもっと強くならなきゃならねぇ…」
一郎の目には鋭い闘志の焔が静かに揺らめいていた。


「くそ!!またあのくそじじぃにしてやられた!!!」
一方、凜花も悔しがっていた。まさかあの年寄りにやられるなど思っても見なかった。それに凜花は負けることを誰よりも嫌った。どんな強い相手でも負けるのはしゃくにさわる。しかも一郎とのタイマンも邪魔されたのだから。
「しかしよ…この組を率いていくにはやはりあれぐらい強くなきゃならねぇんだよな…」
凜花もそれぐらいはわかっていた。この組は血が多い者が溢れかえっており、彼らを止めるにはそれぐらいの強さがなければならない。凜花にはそれがないことをじゅうじゅう承知していた。いくら組長になると口では言っててもそれは単なる見栄だということも。
だが、それは今だけである。いつかは祖父のような立派なーーいや、それ以上の組長のようになると。そしてこんなくだらない縄張りの争いなどという馬鹿げたものもの自らの手で終わらせることを。
「やってやるさ…。親父、お袋。だから空から見ててくれよ」
凜花は手を上げた。上げた先には綺麗な満天の星ぼしが輝いていた。
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