短編
□動悸
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今日は居残りも部活も無いので、うさぎは皆より先にパーラークラウンへ向かっていた。
店の裏手に元基とレイカの姿が見えた。
うさぎは、挨拶をしようと手を上げかけたその時、二人の姿が重なった。
(えっ?)
咄嗟に壁の影に隠れた、うさぎ。
二人は、キスをし始めたのだ。
(どうしよう…)
くちゅ、くちゅ。
二人のキスは激しくなり、濡れた音が耳に響いてきた。
自分も衛とキスはしている。しかし、人のキスの現場なんて遭遇したのは初めてだ。
うさぎはドキドキしながら、出るに出られず、その場で息をひそめていた。
二人の行為はまだ続いていて、レイカの艶のある声が聞こえてきた。
「…あっ、あぅ。」
「レイカ…」
「…駄目よ、元基。これ以上したら。続きはまた…ね。」
…ちゅ。
軽いキスの音がしたと思うと、レイカはその場がら離れ、足早に去っていた。
ふう、と元基のため息が聞こえ、店の裏口の戸が閉まる音が聞こえた。
ドキドキドキドキ。
心臓が早鐘のようになり、うさぎは顔を真っ赤にして、すぐに動けずにいた。
このまま、店に入ると二人のことを思い出してしまう。とりあえず家に帰って落ち着こうと、うさぎは今来た道を戻ることにした。
衛と何度もキスはしているが、あそこまで激しいものではない。
(続きは後でって…。)
うさぎも高校生だ。その言葉の意味がどういったものか分かってしまった。
ドン!
「うわ!!」
「きゃあ!!」
頭のが真っ白になった状態で歩いていたので、誰かにぶつかってしまった。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「うさこ!ホント気をつけろよ〜。」
「うわ!!まままま、まもちゃん!!??」
ぶつかったのは衛だった。今一番会ってはいけない相手だったかもしれない。
「どした?なんでそんなにビックリしてんだよ!」
衛を見た瞬間、うさぎの顔は耳まで真っ赤になってしまっていた。
「うさこ??」
どうしていいか分からなくなり、うさぎは衛に抱きつき、ハラハラと泣き出してしまった。
衛はうさぎを宥めながら、自分のマンションまで連れてきた。
クラウンに行こうと誘ったが、うさぎは首を振り嫌がったからだ。
ココアを作りうさぎに渡す。
「だいじょうぶか?うさこ?」
うさぎは、ココアを一口飲んで、意を決したようにさっき見た元基とレイカの事を衛に話し出した。
それを聞い衛は、口元を押さえて、頭の中で友人を罵っていた。
(時と場所考えろよ!元基ー!!)
話をし、また思い出したうさぎの目が潤んでいたので、衛は抱き締めて、頭を撫でてやる。
衛の胸に顔を埋めたまま、うさぎは気になっていた事を聞いた。
「…まもちゃん。私ってまだまだ、子供っぽいよね?だからキスより先はしてくれないのよね?」
「…!」
うさぎは、上目遣いに衛を見上げた。
付き合い出して随分なる。いつかは言われるだろと思っていた。衛はうさぎの質問に答えず、顎を持ち上げキスをした。
激しく深く、舌を口の中に差し込み味わうように熱い口づけを交わす。
「…んふっ。あっ…。」
うさぎは、普段と違うキスに戸惑い、ついていくのがやっとだ。自分の腕を衛の首に回ししがみつく。
キスの合間に漏れるうさぎの声に、衛も高揚し抱き締める力を強め、キスを深めていく。
唇を離したときには、どちらのものか分からない唾液の透明の糸がひく。
うさぎは、声は出さず肩で息をしながら、衛を見つめていた。
「うさこ。俺はお前の事を子供っぽいなんて思ってないよ。ただ、大切にしたいんだ。」
うさぎの頬に手を添え、軽いキスをする。
「俺だって健全な男だ。好きな彼女がいて先に進みたくない訳じゃないさ。けど、うさこの嫌がる事はしたくないから。」
こんどは、慈しむように額へキスをする。
衛の優しさを感じ、うさぎは胸がいっぱいになる。
「…ありがとう。けど、嫌じゃないよ、私。
まもちゃんになら、何されても良いの。好きだから…。」
今度はうさぎから、求めるようにキスをする。
「うさこ…。良いのか?」
「うん…。」
その後、二人は初めて結ばれたのだった。