長編

□ジェイドラビリンス 完結
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この頃王宮内では、月の王国への不振や有り得ない侵略の話が、真しやかに囁かれ始めた。

原因は王が病気で気弱になり、政治に対して口を出さなくなったせいだった。

王は独裁的で、臣下の言うこと等聞かない。それが災いして慕う者も少なかった。

王は孤独だった。唯一心を許していた妻を早くになくした。原因は出産によるもので、その子が六歳になる前に亡くなった。
以降、王は自身の子である王子に心を砕く事はなかった。

王自身も月の王国に対して、絶対の信頼など抱いていなかった。
長寿への嫉妬と憎悪。自身の妻が亡くなった時それは産まれた。
何とか王族としての血脈と掟が其を表面に出さず押さえ込んでいた。
そんな王の心が闇の力を呼び寄せてしまったのかもしれない。
王は、政事の多くを独断で進めていたが、体調を崩してからは、王子には任せず、司祭や魔導師に担わせていた。その闇は少しずつ王宮内にはびこっていた。

王は王子と心を通わせる事はなかったが、信頼のおける臣下の子を、王子の側近にした。
唯一した親らしい行為だった。
しかし、政事からは遠ざけていた。
妻が亡くなった原因が、出産によるものだと言う事実が王の心に影を落とし、王子を受け入れられずにいた。

その様な境遇でありながら、王子は父を憎んだり蔑んだりはしていなかった。
国を治める王として尊敬していた。
現在は父としての交わりは無かったが、母が亡くなるまでの優しかった父の思い出と母の最期の言葉が王子の心にあり、反抗心などめばえなかった。とは言え孤独な思いは常に抱いていた。そんな王子を支えたのは、友の様に接してくれる四人の側近と何でも教えてくれた姉のような魔導師だった。

王子は聡明で優しく寛大な心の持ち主だったので、慕うものは多かった。
王子はけして政事の表舞台には立たず、側近に指示し影から父を支えていた。
しかし、控えめな性格が災いし、中心に近い臣下達は王子の存在を軽んじていたのだ。

月の王国が、侵略してくるなどの虚偽の噂も王子の行動が、事の発端になっていた。
月の王女との密会。
王子自身は、四人の側近と魔導師にしか伝えていなかったはずだった。

闇は王子の知らぬ間に、側近達にまで忍びよっていたのだ。
気付いた時には遅かった。

王が亡くなったと同時に、月の王国へ攻めいる事になっていた。
事は水面下で進められていたのだ。

王子は悔やんだ。どうして気づけなかったのか。あの優しかった姉のような彼女の変貌を。友人たちの異変を。

其の原因は、人の弱さに付け入った闇の存在と禁忌を犯した者たちへの神の制裁だった。
その時は誰もその事は分からず、ただ時代の終焉を迎えてしまったけれど…。
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