long story:日常in非日常
□休み時間
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なっつんがユズを連れて行ってから約15分。
なっつんのことだから多分屋上かなー
二人とも変なところでストレートだから、喧嘩してなきゃいいけど…って、ユズはともかくなっつんに限ってそれはないか
なんてことを考えながら朝のHRまでの時間をつぶしていると
ダンダンダンダンッ
隣から豪快な貧乏ゆすりが聞こえてきた。
「桜二〜いいかげんじっとしてなよ。せかしたって帰ってこないよ?」
「っせーよ!んなこたわかってらぁ!」
「はぁ…。そんな俺にあたられても…」
ひどくイラついた様子で応答されたが、その理由を考えると仕方が無いような気もして、少しの同情と呆れをこめてひとつため息をついた。
朝二人が手をつないで教室に入ってきたときは多少の驚きもあったが、こちらとしては「やっとか」という思いのほうが強かった。
桜二がユズを好きだということはもちろん、ユズのほうもまんざらではないこと(本人は無自覚だが)は、一緒にいる人間なら周知の事実だったのだから。
ユズも今は否定したり葛藤したりと悪あがきをしているようだが、あの様子なら放っておいても時間の問題だろう。
クラス一同の気持ちを代弁するなら「これでやっと桜二郎から敵意を向けられないでないですむ」っといったところだろうか。
ユズとハイタッチをしては睨まれ、肩を組んでは殺気を飛ばされ、ハグなんてしたりしようものなら1,2発殴られることもあるのではないか。
あの二人がくっつくというのは、それらからの解放を同時に意味していた。
だから煮え切らない態度のユズの背中をなっつんが押しに行ったというのもわからない話ではないし、なるべくしてなったといえばそれまでなのだが
「…なーんか違う気がするんだよね〜」
「あ?何の話だ?」
「ん〜?素直じゃないねーって話」
「意味がわからん」
なおも変わらず眉間にシワをよせた桜二をテキトーにはぐらかしておく。
「なあ、1限目まであと10分だよな?流石に遅すぎね?」
いろいろと考えている間にHRは終わり、既に1限目の10分前にさしかかろうとしているところだった。
うん。確かに遅いかもしれない
「そーだね、出て行ってからもう30分くらい経つよね」
「…行ってくる」
ついに我慢の限界がきたのか勢いよく立ち上がった。
「え、でもなっつんに任せようって!なっつんなら上手くやってくれるよ!」
まあ、なっつんが何をしようとしまいと先延ばしになるだけで結果は変わらないだろう。
だが、もし俺の考えが少しでも当たっているならばこの時間は意味のあるものなのだ。
「別に夏芽を信用できないとかそんなんじゃねぇ。けど、これはそもそも俺の、俺たちの問題だ。他に手を借りていいもんじゃねぇよ。それに…理由や状況はどうあれ、俺の一番聞きたい言葉を俺以外が言わせるってのも癪だし、俺の知らないところにあいつがいるってのもムカつく」
それだけ言うとダッシュで屋上へと向かった。
廊下から「藤!はよ教室に戻らんか!」「てめぇ!ぶつかっといて無視か!」「桜二郎、そんな走るとこけるぞー」なんて声とともにロッカーやゴミ箱を蹴飛ばす音が聞こえるような焦りっぷりじゃ、なっつんを信じてるってのも嘘かホントかわかったもんじゃない。
でも、かこいいよな…
全力でユズを好きだから、少しだって不安なところに置いておきたくない。
独占欲強いにもほどがあるだろ
それでも、それをストレートに伝えるこいつだからこそこんなにもかっこよくて、ついて行きたいって、一緒にいたいって、ユズはそう思うんだろう。
「なんだよ、皆いなくなっちゃって暇じゃん!
なっつん早く帰ってきて〜」
無人の隣の席に消しカスを投げてみた。