長編集II

□Change the Future
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もしかしたら、影山に彼女を寝取られてしまい、挙句できちゃった結婚をされてしまったことが、不平不満の源なのだろうか。
恋愛という言葉から縁遠いあの後輩が、果たしてそんな芸当をしでかすものなのだろうか。
つらつらと考えていると、25歳の及川は溜息交じりに苦笑した。

『ま、俺も7年後の俺に会って話聞くまでは、今のお前とおんなじこと考えてた』
「俺の考えが分かるの?」
『当たり前じゃん、7年前の俺なんだから』
「じゃあ、何考えてるのか当ててみなよ?」
『飛雄に彼女取られて、できちゃった結婚されたとか思ってたんでしょ?』

思わず拍手をしたくなるくらいにキッパリ言い当てられてしまうと、案外何も言い返せないものだなと思った。

『でも、残念ながらそうじゃない。俺はさ、あの彼女に飛雄を奪われちゃったんだよねぇ』
「ん?」
『いつまでもカッコイイ及川さんでいたいからって思っててさ、バレーばっかりしてたら、飛雄のヤツちゃっかり大学で彼女作ってさ……できちゃった結婚だよ、もう』
「んん?ちょっと待って、飛雄にそんな甲斐性あんの?」
『アイツ今実業団でバレーしてるし、全日本にも入ってるから、結構高所得者だと思うけどね』
「へえ……」

まあ無きにしも非ずの話だなとは思う。
影山は天才で、18歳の及川が住む世界でもそこそこ名が知れているのだから、7年後に世界を相手にするプレイヤーになっていてもおかしくはない。

『ぶっちゃけお前、飛雄のこと好きなんだから、変に意地っ張りになるなよ?』
「あり得ません。及川さんは女の子が大好きなんですぅ」
『いや、それ間違いだから。思い当たる節があるなら、18歳って年齢の時にしっかりやっとけ。そうでないと、別次元で生きてる32歳の俺が死んだら、延々と及川徹がパラレルワールドを行き来することになるんだからね』

次元の違う3つの世界は、決して交わることはない。
だが不満を抱いたまま人生を終えれば、及川は延々と3つの次元の中で願う将来を求めて彷徨い続けるのだという。

『こういうのを、次元迷子って言うんだってさ。だからちゃんと飛雄と向き合って、好きって言いな』
「だって別に好きじゃないもん。クソ生意気だもん」
『ちなみに、32歳の俺は飛雄とあの子を離婚させようとして、こっぴどく飛雄に怒られてションボリしてたよ』
「げ……」
『そんで今の俺は、こうしてストーキングしてるワケだけど、まあいつ通報されてもおかしくないんだよね』
「げげ……」
『だから、お前は素直になって、この因縁を断ち切らないといけないの。ああ、32歳の俺から預かった時系列のメモ、もういらないからお前に上げる』

25歳及川は、ジーンズの尻ポケットから折りたたんだメモを取り出すと、こちらに差し出して来た。
恐る恐る受け取って開いてみると、紙自体が黄色味がかっていてかなり古いことが分かる。
それに筆跡も自分のものと同じで、とても別人が書いたメモだとは思えなかった。

『どうにかして飛雄をモノにしとかないと、お前がおじいちゃんになった頃、年下のお前が別次元から現れるかもな』
「って、ちょっと、どこ行くの!?」

メモを渡すなり駆け出す相手を見て声を荒げるが、振り向いてはもらえなかった。
そう言えば、影山のストーキングをしていると言っていたなと思い出し、きっと影山一家を追ったのだろうと納得する。

「って、納得してる場合じゃないよ!ストーカーして通報されたら、及川家の恥じゃん!」

だが追いかけようとしたその瞬間、足場がふっと暗くなり、瞬く間に視界が闇に閉ざされてしまう。
これはどういうことなのかと考える間もなく、明るい世界から隔絶され、戸惑っているうちに目覚めの時を迎えた。





枕元でけたたましく鳴り響く目覚まし時計を手探りで止めて目を開くと、見慣れた自室の天井が視界に入る。

「夢、か……なんか、やけにリアルだったような……」

パラレルワールドだとか次元迷子だとか、妙な言葉の記憶が、しっかりと脳内に根付いている。
ついでに子連れの影山一家の後ろ姿も、鮮明なほどに焼き付いており、何だかムカついてしまう。
どんな権利があって偉大な先輩の夢に登場したのかと、イチャモンをつけたくなるほどだった。
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