ミックスCP

□及川さんが一番です
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日曜日の昼下がり、晴天に恵まれ、気温は高くも低くもなく、デートには打ってつけだ。
ただし、それはあくまで相手と一緒にデートをする場合に限ったことであり、待ち合わせに使われるのは専ら屋内だ。
なぜなら待っている間に突然天気が崩れるかもしれないし、車が突っ込んでくるかもしれない、というリスクがあるからだ。
とはいえ天気の方には頷けても、車が云々という言い分に、影山は納得していない。
こんな日こそ外でランニングをしながら待ちたいと思うのだが、及川にしてみればそれが大いに気に入らないらしく、最近は無茶な理屈を並べては喫茶店を待ち合わせ場所に指定されることが多い。

「余計な出費だっつーの……」

待たせる側であれば特に金を出してドリンクを買わずに済むのだが、今日は影山が待つハメに陥っている。
どうやら及川の髪の寝癖が酷いらしく、なかなか髪型が決まらずに悪戦苦闘しているという連絡をもらっていた。

「髪型なんてどうでもいいのに」

影山はサラツヤストレートヘアなので及川の苦労がよく分からないからこそ、そんなボヤキが口を突く。

「あ、影山……」

独りブツブツ零していると、どこか懐かしい声が聞こえ、影山はすすっていたコーヒーから口を離して声の主へと顔を向ける。
そこには久しく会っていない国見の姿があり、何だか気まずくなった。

「お、おう……」

金田一とは違い、国見は中学時代のあれこれについて、どう考えているのかを口にすることはない。
だからこそ影山は咄嗟に目を逸らし、辛うじて挨拶らしき言葉を口にしたのだが、国見は何を思ったのか向かいの席に落ち着いてしまった。

「誰かと待ち合わせ?」
「おう……」
「ふーん、俺も」
「そ、そうか……」

一体どういうつもりで自分の向かいに座ろうなどという突発的行為に出たのだろう。
もしや過去についてチクチクと文句を言おうとしているのだろうかと考え、国見ならやりそうだという失礼な結論に辿り着く。

「及川さんとデートなんだっけ?」
「は……?」
「昨日、あの人部室でお前とデートするって浮かれてた」
「え、ちょ、待てよ?俺らのことって秘密だって言われてんぞ?」
「そんな事情俺が知るワケないじゃん」

これはもしや国見の誘導尋問に引っかかったということなのだろうか。
過去の軋轢のことを敢えて口にすることなく、「お前男と付き合ってんの?バカじゃない?」と心の中で嘲笑っているのだろうか。

「あれ、王様?」

1人ヤキモキしていると、今度は別人の声が頭上に響き、影山は少し警戒しながら顔を上げた。
この限りなく癪に障る声、こちらが嫌がるのを承知で「王様」と呼んでくる不躾さ、これらを持ち合わせている人物など、この世のどこを探しても月島しかいないと断言できる。

「よう」
「こんなトコでなにしてんの?」
「オメーこそ、なんでこんなトコ来てんだよ?」
「僕は待ち合わせ。相手がちょっと遅れるって言うから、ここで時間潰そうかなって。隣、いい?」

待てよ、と影山は思う。
向かいの席には国見が、隣の席には月島が、というシチュエーションなど、拷問でしかない。
しかし店内は混み合っており、断れば月島がどこにも座れなくなるのも事実だ。

「座ればいいだろ?」
「どーも。あれ、ツレがいるんだ?」

月島はピンク色のストロベリーフラペチーノをテーブルの上に置くと、どこかで見たような見ないような、見たとしてもとても印象が薄かったであろう人物をまじまじと見つめた。

「北一ん時のチームメイトの国見だ。今青城に通ってる」
「ああ、どっかで見たなって思ったら、青城のレギュラーの人?なんかやる気なさそうなクセに、王様を作り上げちゃった人でもあるんでしょ?」

そこで影山はしまったと思った。
国見はまだ何も言葉を発していないが、性格は月島と結構似ている部分がある。
やる気がなさそうなところも、イヤミの類を言わせれば天下一品なところも、本当にそっくりだ。
要するに影山は国見とチーム内でいい関係を築けなったからこそ、月島とも上手く行かないのだと、この瞬間まざまざと思い知った。
なんだかとても嫌な予感しかしない。
及川はまだ来ないのかと携帯を見つめるが、どうやら未だ髪のセットに手こずっているらしかった。
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