長編集II

□Change the Future
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<夢じゃない!?>







及川徹18歳、現在就寝中──。



見渡せば見慣れた光景で、ここはどこなのだろうと考えることはなかった。
自宅から数分ほど歩いた場所にある、ありきたりの公園の中にいることは自覚している。
だがなぜ公園内に併設された遊歩道沿いに生える大木の陰にいるのかは、残念ながら分からなかった。

「っていうか、及川さんこんな辛気臭いとこじゃなくて、ブランコとか乗りたいよ」

ブツブツと独り言を呟きながら陽の当たる場所へ出ようとすると、咄嗟に肩を掴まれ行く手を阻まれる。

「ちょっと、誰?邪魔……しない……で……?」

抗議しようと振り向いた先には、自分と全く同じ顔をした人物が、仏頂面で立っていた。
否、全く同じというよりは、少しだけ大人っぽい気がしないでもない。

「俺……?」
『そう、俺は7年後のお前なの』

ということは、相手の名前も及川徹と言うのだろうか。
素直にそう問うてみると、彼は肩を掴んだまま肯定した。

「ちょっと、じゃあ肩放してよ。及川さんはね、まだティーンエイジだからさ、ブランコとかで遊びたいお年頃なの」
『そんな悠長なこと言ってる場合じゃないんじゃない?あっち、見てごらんよ』

彼が指差す方向に視線を向けると、遠くに真ん丸い後頭部を持った人物の姿が入ってくる。
あれは間違いなくクソ生意気な後輩のものだと断言していいだろう。

「飛雄?ってか、相変わらず頭真ん丸だねぇ……」
『見るべきなのはそこじゃないって。隣見ろよ、隣』

相手は心から呆れているらしく、影山ばかりを見るのは邪道だとばかりに肩を揺さぶった。

「はあ!?何、あの子!?ま、まさか……飛雄の彼女!?いや、まさか……アイツに限ってそんな……」
『彼女じゃなくて、お嫁さんだから。あのお嫁さん、子供抱っこしてるでしょ?飛雄の子だからね』
「またまたぁ、そんなこと言って及川さんを騙そうたって、そうは行かないんだから。ちょっとからかって来ようっと!」
『だから、だめだって』
「なんで!?」
『……あのね、今から言うことは事実だから、よーく聞いて』

及川は仕方なく、現在25歳の及川の言い分を聞くことにした。
聞かなければ肩にかけられた手から解放されるとも思えないのだから、仕方がないだろう。

『とりあえず、お前が今ここにいるのは、将来的に不平不満ダラダラになるからなの。とうか、そういう人しかこの世界には来られないの』
「は……?」

25歳の及川が言うには、この世界には平行して3つの次元が存在しているらしい。
巷で言うところのパラレルワールドというやつなのだが、そのメインとなる世界に住まうのが、18歳の及川だということだ。

『今から7年前の世界が軸、今俺がいる世界が軸の一つ先、更に7年後の俺がいる世界が軸から一番遠い世界。オッケー?』
「はあ……将来的にどうとかっていうのは、どういう意味?」
『お前さ、飛雄が結婚して子供がいるこの世界に、俺が満足してると思う?』

質問に質問で返すなと言いたいが、同じ自分であっても年齢差のせいか威圧感があり、何となく逆らえない。

「どうだろ……?でも、及川さんだって当然結婚して……」
『してないよ、独身だよ』
「は!?え、俺って飛雄に先越されるの!?なんか悔しいんだけど!」
『あー……やっぱ18の頃の俺ってバカだ。お前さ、さっき将来的に不平不満持つヤツだけがここにいるって聞いてた?』

そう言えば、そんなことを言われた気がしなくもない。
だが将来など誰にも分からないからこそ、人生は面白いと思えるものではないのだろうか。

『うんうん、いいよ、そういう考え。でもね、俺も7年後の俺、つまり32歳の俺も、不平不満に満ちてるワケだから、18歳のお前がここにいるんだって、いい加減理解しなよ』
「どういう不平不満があるの?」
『だから、あれ。飛雄が結婚しちゃって、すんごく後悔してんの』
「へ……?な、なんで……?」

何をどうしたら不満に思うようになるのだろう。
だが相手にその理由を聞くのが、何だかとても怖い気がしてならない。
パンドラの箱を開ける前の心理というやつなのか、得体の知れない不安を抱き始めていることに気付きつつあった。
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