短編

□部活対抗烏野体育祭
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烏野高校の体育祭は一風変わっている。
大抵の学校はクラス対抗であるのに対し、運動部による部活対抗であることが際立った特徴だ。
だがそれぞれの部には人数差がある。
それを埋めるために、帰宅部や文化部の生徒は体育祭の日限定で運動部に籍を置くことができ、それでも人数が不足している場合は他校生や父兄の参加まで認めている。
秋晴れに恵まれた体育祭当日、帰宅部や文化部の在校生を受け入れても尚人手不足の烏野男子バレー部に、呼んでもいない救世主が現れた。

「ハーイ、堕ちた強豪・飛べない烏の皆さん落ち着いて!及川さんが助っ人連れて来たからには、もう大丈夫!」

黒いジャージに身を包むバレー部の面々は、唖然とした。
なぜこの場に及川を呼んだのかと、皆が影山に鋭い視線を向けて来る。

「あの……俺、何も言ってません。なんか、勝手に烏野の体育祭実行委員に取り入って話聞いたみたいッス」

影山は今日が体育祭であることも、他校生が自由に参加できることも明かしてはいない。
いきなりの及川登場に驚いているのは、影山も同じなのだ。
だが及川だけならまだしも、その後ろに控えている岩泉や金田一、国見は被害者なのだろうと分かる。
彼らの浮かない表情が全てを物語っているようだ。

「スマン、岩泉……迷惑だったよな?」

さすがの澤村も及川以外の3人には罪悪感を覚え、引きつる笑顔で気遣ってみる。

「慣れてっから気にすんな。だが、真の敵は他の部じゃねーってことだけは理解しとけ」
「じゃあ、何が敵なんだ?」
「及川だ。アイツはな、影山が何かしようとする度に必ず邪魔するぜ。俺には止められねーし、お前らにも止められねー」

とても説得力のある言葉だった。
まだ体育祭が始まっていないのに、及川は影山の背後から抱き付いて離れようとしない。
どうやら彼の辞書には「羞恥心」という言葉が欠落しているようだ。

「飛雄は何に出るの?種目によっては影武者使うからね?」
「はあ!?何スか、影武者って!?」
「ほら、あそこに金田一と国見ちゃんがいるじゃん?中学からの付き合いだし、立派な影武者できると思うよ?」
「俺、金田一みたいに長くないし、国見みたいにやる気なさそうなツラしてねーっすよ!」
「2人ともやればできる子じゃん?そりゃ中学時代は使えない下僕だったんだろうけど、今は及川さんによって矯正されてるから問題ないよ!」

そして金田一と国見は益々仏頂面になる。
なぜ自分達が烏野の体育祭に呼ばれたのかと疑問に思っていたが、どうやら影山の身代わりを務めることが義務らしい。

「なあ、国見?俺ってそんなに長いか?」
「うん、長い。ねえ金田一、俺ってそんなにやる気なさそう?」
「ああ、死んだ魚みたいな目してる」

心がささくれ立っていて、互いに互いを気遣えない。
それもこれも「使えない下僕」呼ばわりをした及川のせいなのだが、生憎そんな気持ちは言った本人には塵ほども伝わっていなかった。





そうこうしているうちに、最初の種目の開始アナウンスが流れ始めた。
まずは2人3脚で、バレー部からはすばしこくて妙に息の合う西谷・日向が出場する。

「えー、及川さんも出たい!飛雄と出たい!」

応援席で及川が喚くが、どの種目に誰が出るのかは既に決まっている。
当日乗り込んで来て個人種目に出たいなどと主張されても、もうエントリーの変更などできはしないのだ。

「飛雄!なんでこんな美味しい種目があるって、教えてくれなかったの!?」
「……なんで言わなきゃいけないんです?」
「だって俺達の抜群のコンビネーションを見せる絶好の機会じゃん!?」

なぜよその学校の体育祭で、これほどエキサイトできるのだろう──。

烏野バレー部の面々はさることながら、青城の面々も自分達の主将がこんな人だったとはと認識を新たにしていた。

2人3脚は身長が似通った2人の息の合った走りで2位を獲得する。
こういう場では圧倒的に強い陸上部が本領を発揮している中、2位というのは好成績で、競技を終えた2人を皆が温かく迎え入れてやるのだが、及川だけは態度が違った。

「そんなんだから、堕ちた強豪のままなんだよ、ケッ……」
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