短編

□文化祭クラッシャー
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ここ2週間ほど、及川はずっと禁欲させられている。
別に影山とのエッチを拒まれている訳ではないのだが、キスマークを付けようとするとすぐさま手で口を塞がれてしまい、何となく支配欲が満たされていないのだ。

「なんで飛雄はキスマーク嫌がるのかなぁ……?」
「なんでお前はそういう生々しい話を、恥ずかし気もなく平気でするんだかな?」

隣を歩く岩泉は、もう慣れたとはいえ少しくらい遠慮して欲しいと切に願っている。
しかも2人の背後には金田一と国見という、かつての影山の同級生がいるのだから、尚のことだ。

「もしかして、聞きたくないの!?」
「なんで『まさかそんな』ってツラしてんだよ?聞きたいワケねーだろが、ボゲ」
「そうなんだ。でも及川さんは言いたいし、言えば聞いてくれるもんね。信じてるよ、お前ら」

なんだか「信じてるよ、お前ら」の使い道が違うように思うのは、岩泉だけだろうか。
試合前に言われると引き締まる言葉だが、それ以外の場で言われると鬱陶しくて殴りたくなってくる。

ところで、なぜ秋晴れに恵まれた折角の休日にみんなで出歩いているのかというと、実は今日が烏野の文化祭だからである。
バレー部で喫茶店をやるという情報をキャッチした及川は、是非出向いて冷かしてやりたいと言って譲らず、岩泉と金田一、国見を巻き添えにして向かっている最中だ。

「ところで及川さん、烏野のバレー部って、料理できるヤツいるんですかね?」

金田一は純粋に疑問に感じて問うてみた。
影山に関して言えば料理の腕は壊滅的で、他の面々もあまり料理とは縁がなさそうな気がしてならない。

「あのマネージャーの子が作るのかもよ?」
「え、あの美女がッスか!?」
「えー、もしかして金田一ってああいう子が好みなの?」
「い、いや……あの……それは……」

もちろん好みだが、何となく口にしてはいけないような気がする。
それに清水には部員の中に親衛隊がおり、近付こうものなら威嚇されるのだから、まさに高嶺の花状態だ。

「お前、なんでそんなに赤くなってんの?」
「う、うるせーよ、国見!美女っつったら、興味あんだろうが!?」
「俺あんまり興味ない。喫茶店でウェイターやってる王様からかって遊ぼうかな」
「……お前の方が悪趣味じゃんかよ」

そんなことを話しているうちに、烏野の校門が見えて来た。
賑やかな声が聞こえてくるということは、相当盛り上がっていると考えていいだろう。

「公立の文化祭ってもっと地味かと思ってたのに、私立と変わんないね?」

及川は校門内に入ってパンフレットを受け取り、さてバレー部の喫茶店はどこでやっているのやらと探し始める。

「っ!?」
「どーした?」

いきなり息を飲む気配が伝わり、同じくパンフレットを眺めていた岩泉が声をかける。

「バレー部の喫茶店……普通の喫茶店じゃないっぽい……」
「あ?普通だろーが?」
「違う……及川さんの飛雄センサーが異変を感知してる!急ぐよ!」

言うなり駆け出した及川を、他の3人は幾分呆気に取られながら追い始めた。





「うん、影山女装似合うな?なんかさ、もう女王様って感じ!」

菅原は満足そうに大きく背中の開いた漆黒のロングスリットドレスに身を包み、黒ロングのカツラをかぶって程よいメイクを施した影山を見つめる。

「か、影山……踏んでくれ!」
「俺も……!」

田中と西谷が思わず涙目でお願いしたくなるほどの出来栄えで、清水は内心「すごい」と思いつつ見ているが、谷地は「負けた……」という敗北感に打ちのめされている。

「……なんで俺がこんなカッコしんきゃいけないんスか?」

2週間くらい前から及川にキスマークを付けさせるなと、意味不明な命令が下され、今日まで忠実に守ってきた影山は、このドレスを着せたかったからあんなことを命じたのかと、半ば呆れている。

「ぷっ、王様が女王様とか、ホント勘弁して欲しいよね」
「っるせーな、月島!テメーの眼鏡、ヒールで破壊すんぞ!?」

ちなみに影山は今黒いエナメルのピンヒールを履いており、月島とほぼ同じくらいの目線を保つことができていた。
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