短編

□愛を誓おう
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<前編>



部活を終えて帰路を辿る影山は、夜空を見上げた。
きらきらと光る星の群れ。
それらよりも大きな輝きを見せる、少しだけ欠けた月。
一見温もりに包まれているような空だが、地上の空気に温もりは一切なかった。
影山は両手いっぱいの荷物を持って、時折空を見上げながら家への道を辿る。

「あの人は……東京だよな……」

及川と付き合い始めたのは、実は影山が高校2年になってからだ。
それまで影山を見るにつけ悪戯や意地悪を仕掛けてきた及川から、突然「好きだよ」と言われ、好かれているのなら構わないかと思い、交際をスタートさせた。
だが、影山はすぐに疑問という名の壁にぶち当たった。
男同士の恋愛というのは、実はとても不自然なことだと知ってしまったからだ。
特定の誰かに教えてもらったのではなく、クラスの女子達がそう話しているのを耳にしたのだ。
そんな話を聞いてしまうと、いくら恋愛に鈍感な影山でも、気にしない訳にはいかなかった。
なぜなら及川は常に異性にモテており、わざわざ男相手に恋愛をしなくてもいいように思ったからだ。
影山は別れるとまでは言わないものの、こちらから連絡するのをやめた。
及川からは毎日メールが届き、それには短く返信するが、自分からメールを送ったり電話したりはしていない。
影山は一度立ち止まって、荷物を持ち直した。
今日は12月22日、影山が16年前この世に生を受けた日だ。
バレー部の面々はそのことを覚えてくれていて、帰り際に部室内でちょっとしたプレゼント贈呈式を開いてもらい、両手いっぱいの贈り物をもらった。
有り難いことだと純粋に思う。
しかし一方で、決定的に何かが不足しているとも感じていた。
その「何か」を深く追求する気はない。
そんなことをせずとも、影山の心の中には「何か」がぽっかりと浮かび上がっており、影山は単にその「何か」から視線を逸らしているだけだ。
ではその「何か」を自ら補充することができるのかと考える。

「できねー……よな」

自分からは絶対に連絡しないと決めた。
及川がそのことに気付いているかどうかは知らないが、男同士の恋愛に未来がないことくらいは承知していることだろう。
影山は電話をしてみようかという考えに蓋をして歩き続け、ようやく自宅が視界に入った。
だがそこで思い切り両目を見開く。
自宅前の電柱に、見知った人影が背を預けている姿を見付けたからだ。



なんでアンタがこんなとこにいるんだ──?



ついさっきまで物足りなさを埋めるピースは及川だと思っていたのだが、よもやこうも都合よく姿を現すとは思ってもみなかった。
第一、及川は都内の大学に進学し、バレー漬けの生活を送っていると聞いている。

「相変わらず、遅いお帰りで」

影山が少し歩調を緩めたのを見極めた及川は、自分の方から影山の方へと歩み寄って目の前に立ちはだかった。

「すごい荷物じゃない?」
「え?あ……これは……ちょっと、家の中に置いて来るんで」

及川は自宅に猛ダッシュして行く影山の背を見つめ、目を細めた。
影山が自発的に連絡をくれなくなって、もうどのくらいになるだろう。
最初は忙しいのかと思って短いメールを送るだけだった及川だが、影山は些細な内容であっても、何らかの言葉を返してくれている。
だが影山の方から新たな話題を振ってくることはなく、多忙以外の何かしらの理由で連絡をしなくなっているのだろうと思うようになった。

「お待たせしたッス」

及川はしばらく影山を見つめていたが、やがてクスッと微笑んだ。
このコミュ障の恋人にも、ようやく誕生日プレゼントを贈ってくれる仲間や友人ができたのかと思うと、嬉しい反面嫉妬心を煽られる。
だが今日という日に喧嘩を吹っ掛けるような真似をする気はなく、及川は影山の腕を掴んで自分の方へ引き寄せた。

「誕生日、おめでとう」
「っ!?」
「お盆には帰省できなかったけど、今日から年明けまでは部活が休みなの」

そうだったのかと、影山は抱き締められながら及川の温もりを確かめるように、そっと瞼を下ろした。

「ホントはさ、今日の午前0時に電話でおめでとうって言いたかったんだけどね。お前が寝てるといけないから、我慢した」

それでも今日「おめでとう」と言えたのだからそれでいいのだと、及川は影山をきつく抱き締めながら耳元に囁いた。
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