【境界ドールSTILL】

□03:目眩象る
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「…何故知っている?」

ヤイバは何故か怒っているような顔つきで少女に問いかけた。
――今までに見ないその表情、まるで少女を憎んでいるかのように。
少女はそれに震えて、申し訳なさそうに手を合わせた。

「あ…ごめん。口外しちゃだめだったね。あたし…近くで聞こえたの、事故の大きな音」

話を聞くと、少女は丁度事故現場の近くにいたらしく、それで俺の事を覚えていたそうだ。

「他の人が救急車とか呼んでたみたいで、言わばあたしは野次馬みたいなものだよ…ごめんね思い出させちゃって」
「………そういう事なら、仕方ない」

ヤイバは事情を知ると、穏やかな表情に戻った。
申し訳なさそうに俯く少女。

「二人ともごめんなさい…誰にも言わないから」
「気にしてねーよ俺は。な?」
「ああ」

ヤイバは目を閉じてうなずいた。
それを見て、少女はぱぁっと笑顔になった。

「シロウ君と、ヤイバ君だったね。お店に来てくれたお礼と、さっきのお詫びに…お店にあるもの一つずつ、ぜーんぶタダであげちゃう!」
「は!?」
「…そこまでしなくても」

いーのいーの!と少女は笑う。
償うかのように、ケーキとドーナツを袋に詰めていく。

「…ありがとな…えっと、」
「君、名は何だ?」
「!…………ま……」

少女は口ごもりながら、照れくさそうに答えた。

「…あたしの名前は『海神 蒼麻(わだつみ そうま)』…『ソウマ』で良いよ」

「あぁ、よろしくな、ソウマ」
「…先程はすまなかった…ではまた来る。くれぐれも口外はしないでくれ」

軽く捨て台詞を吐いて、ヤイバは店を後にする。
もう怒ってないんじゃないのかよ…と思いながら、たくさんの菓子の入った袋を受け取り、『また来る』とソウマに伝え、ヤイバの後を追った。


「あの子が『シロウ』か…アイツが言ってた通りの良い目してんじゃん。あの『ヤイバ』って子も、あの子の事…本当に大切にしてるんだろうな……」

――これから先に待ち受ける運命も知らないで。


  ◆  ◆  ◆


「…あー、ったく何処行ったんだよアイツ」

あの後、結果的にヤイバを見失った俺は、デパート『003』内で必死で姿を探している。
少女、ソウマの発言がそこまでカンに障ったのだろうか。
基本的にヤイバは女にあまり怒らない。そのはずなのに、あんな風に怒りを見せる事はまずありえない。
抑えてはいるものの、まるで…今にもガラティーンで切りかかるような、あの表情。

――憶えてるんだ。
フェンリル支部に入ったばかりの頃、新人の俺は『自分は強い、一人で戦える』…そう思い込んでいた。
出会ったばかりのヤイバとは意見が合わず、何度か衝突した(今もそうだが)。
けど、ヤイバとともに向かった『\区調査指令』のミッション。
Sランクブレイザー、ツルギとの戦い…俺は足手まといのお荷物でしかなかった。
ヤイバに守ってもらって、助けられて。俺は新米である事を思い知った。
…けれど悟った事で、ヤイバは俺を『一人前のブレイザー』だと認めてくれたんだ。

――そう、憶えているんだ。
俺がツルギにやられそうになった時に、俺を守ってくれた、ヤイバの顔。
少女、ソウマに見せたときと、同じ顔―――……。

「……ッ、ヤイバ…」

忘れたくても忘れられない、辛くて懐かしい思い出。
アイツは昔と変わらず、今も…。
………あぁ、情けねぇ。


「――――――――ッ?」

――突然、甲高い耳鳴りがした。
周りの騒音が一気に聞こえなくなって、キィンと耳鳴りだけが響いている。

――くらり。
目眩がする。
脳内がぐしゃぐしゃにされるほどの目眩とともに、俺の前の風景が徐々に変わる。

いつもの幻聴?幻覚?
…違う、これは違う。
俺はさっきまで、003にいたはずなのに。

俺の前に広がる光景は…かつてアルバートと戦った場所。

――『ゲート・グランナーク』

…そしてグランナークの前に立つ、俺とヤイバの姿――。



――――ドクン。
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