【境界ドールSTILL】
□03:目眩象る
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「――ッ、何だ、今のっ……」
耳鳴りはと目眩は既に無く、周りを見渡せば、いつもの003。
…今の光景は何だったんだろうか。
冷や汗が止まらない、心臓が激しく騒ぎ立てる。
分からない。分からない。ハズなのに。どうして、何で。
「ヤイバ――――…」
ヤイバが、いない、隣に、いない。
傍に、いない――……。
俺は急いでヤイバを見つけ出したくて堪らなかった。
息が止まるほど走り回った。
でも、何処を探しても、何故か見つけられなくて。
最後に探していないのは…『アンダーグラウンド』のみとなった。
「くそっ…どこ行ったんだよ」
しかしそこをくまなく探しても、ヤイバの姿を見つけられなかった。
――何故だろう。
タマに彼氏ができたときとは違う、胸につっかえるような感覚。
今まで味わった事のない…心が空っぽになるような――。
「………ぐすッ」
「ん…?」
何処からか、すすり泣く声が聞こえる。
その声を辿ると、薄暗い入り口…この奥は確か、俺とタマが初めてペッタンと出会った場所だ。
「誰か、いんのか…?」
引き寄せられるように、俺はその声の元に足を運ぶ。
その奥には…ボロボロの黒パーカーを着た、一人の少年がうずくまっていた。
「おいお前…何してんだ?」
「…!!ニ、ニンゲン…!?」
顔をパーカーで覆い隠した少年は、俺の声に驚き、ぶるぶると震えだした。…まるで化け物に怯えるかのように。
俺がそれに動揺していると突然、ぐうぅ、と大きな音が鳴った。
…コイツ、腹減ってんのか。
「…これ、少しで良ければやる」
俺はそう言い、袋詰めにされた菓子を少年に渡した。たくさん貰ってるし、この程度は問題ない。
「あ…コレ、ボクに?」
「良いぜ、食えよ。腹減ってんだろ?」
「…ソーマの作ったマドレーヌですね」
「ソウマの事知ってんのか」
少年は『ハイ』と答えると、すぐさま渡したマドレーヌにかぶりついた。
よほど腹が減っていたのか、10秒も経たずに食べ終えてしまった。
「…おい、俺に言う事あんだろ?」
「…ゴチソウサマでした、アリガトウゴザイマス」
「よし」
どうやらすすり泣いていた声の持ち主は、食べ物で元気になったようだ。俺は一安心する。
少年は、ゆっくりと俺を見上げた。
…顔はよく見えないが、黄色というか黄緑というか…不思議な色の瞳をしていた。
不思議な瞳に、不思議な髪の色。
パーカーで顔を隠しているものの、それはうっすらと確認できた。
「………あの、」
「んだよ」
「キミの名前、教えてください」
「――『シロウ』だ」
俺の名を教えた途端―――。少年は、ニィッと口角を上げた。
「――ソウデスカ。キミが『シロウ』ですか」
「ッ!?」
「へへ…やっと見つけましたよ…シロウ……」
黒い笑みを浮かべる少年は、俺の頬に優しく触れる。
…氷のように冷たい。まるで生きていないかのように。
その手と笑みとあまりに矛盾した、先程の子供らしさと触れた手の優しさ。
矛盾過ぎて、脳内がまたぐしゃぐしゃになる――。その時だった。
「――ネジ!!」
「あっ―――マキちゃん!」
そこには、女性……の格好をした、黒髪の少年が、息を切らしながら此方へ向かっていた。