【境界ドールSTILL】

□03:目眩象る
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「その子に近付くな言うたやろ、ネジ…!」
「…ゴメンナサイ…」
「あ…あの、」
「ワリッ、うちのネジに食べ物くれたんやろ?シロウ君」
「――――、」

こいつも、俺の名前を………。
ぐしゃぐしゃな脳内は治まらず、言葉が出ないまま、黒髪の少年は続けた。

「…皆、知らんわけ無い。関係者以外にも知ってる奴はたくさんおる……哀しい話ほど、人間にとっては面白いらしいで」
「!!」
「…気ィ悪うしたら、ごめんな?」

黒髪の少年の悔しそうな表情に、俺は悟った。
――コイツも俺と同じ目をしてる…俺と同じように、『何か』を失ったあの目。

俺はそれで全てを許した。
パーカーの少年の矛盾した何かなど、一瞬でどうでも良くなってしまった。
…いや勿論、この黒髪の奴が『女装』をしている事が一番気になるが、まぁそれは置いといて。

「お前ら、名前は何で言うんだ?」
「「…名前……」」

二人は顔を合わせ、しばらく俯いた後…黒髪の女装少年から口を開いた。

「名前…オレは『社城 巻(ヤシロ マキ)』。よろしくな」

それに続くように、パーカーの少年も口を開く。

「……ボクは、『神庭 螺子(カンバ ネジ)』…デス」 

――『ネジ』と『マキ』。
それが二人の名だった。
俺と同い年に見える二人は、外見は全く似ていない。
けど、その名がまるで兄弟に付ける名前のように思えて、ふっと笑ってしまった。

「よろしくな。ネジ、マキ」
「おう…ってアカン!もう時間やでネジ!!はよ帰らんと!!」

マキが腕時計を見て、ネジの手を引く。
…マキはお兄ちゃんみたいな性格なのかもなぁ(お姉ちゃんというのも考えたがやめとこう)…。

「じゃあ、ボク達は帰ります」
「…今度会ったら、オレん家に遊びに来ぃや」
「おう、またな」

…そうして俺は、二人と別れた。

――今日、俺はとある三人と出会った。
スイーツショップを一人で切り盛りする、純粋で明るい少女、『海神 蒼麻』。
何を考えてるのか分からないが、少し子供っぽい『神庭 螺子』。
お兄ちゃんぽくて一番まともそうに見えるが、何故か女装姿の『社城 巻』。

――何故だろう。
ただの出会いのはずなのに、胸がざわつく。
今日の目眩と耳鳴りといい…ここから先に待ち受けているような、不安というか予感というか…。



…………あ。

「そういや俺…ヤイバ探してるんだったな」
「――――シロウッ!!!」
「どぅわあああぁぁぁぁぁぁ!?」

驚いて振り向くと…そこには探していたはずのヤイバの姿だった。
しかも何故かイグゼクスの姿で。

「シロウ…何処に行っていた…!」
「そっそれはこっちの台詞だ!急に先に行くから見失っちまったんだよ!ったく散々探したってのに…!」
「…I'm sorry」

元の姿に戻ったヤイバは、二つの小さな紙袋を手にしていた。

「…前にアクセサリーショップで見かけたんだ…どうしてもお前に……」
「……?」

手渡された片方のそれを、俺はそっと開けて取り出す――。
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