【少年未来大革命論】

□1.『俺の命をあげる』
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『――ねぇ、もう朝だよ?』

どこからか、懐かしい声が聞こえる。
あの時の、透き通った、優しい…。

『朝ごはん、きちんと食べなきゃ』

君は、誰なんだ?
そう、問いかけたかったけど、口も身体も動かない。まぶたさえ重く感じる。
あぁ、そうだ。思い出した。
影山の夢を見て。父さんと母さんに痛めつけられて、車のトランクに入れられて、それから。
その車は何かにぶつかって……。
それから先の記憶がない。

俺……死んだのかな…。
そう思ったとき、今度は叱るような声が聞こえた。

『もうっ!生きてるんだから、早く起きて!』

――その声と同時に、ハッと目が覚めた。
俺…生きてる?ここは…何処だ?

まず俺の視界に入ってきたものは、白い天井。そして左右を見ても、ベッドを見ても、どこを見ても、白白白、白で統一されている。
ベッドの近くにある棚には花瓶があって、鮮やかな花が活けてある。

「………病室?」

その時、誰かがこちらに近づいてくる足音がした。
コンコン、とノックが聞こえた後、ゆっくりとドアが開かれる。

「…――風丸!」

それは、豪炎寺だった。
豪炎寺はすぐさま傍に駆け寄り、俺の顔色をうかがう。
今にも泣き出しそうな、か細い声で。

「風丸……大丈夫か?」
「あ、あぁ…平気だ」

俺のその言葉を聞いて、良かった、と安堵する豪炎寺。


話を聞くと、俺と両親が乗った車は、トラックと正面衝突したらしい。
そして俺は2,3メートルの場所に飛ばされており、4日間は目を覚まさなかったそうだ。
その四日間の間、豪炎寺だけでなく、円堂や他の連中もちょくちょく見舞いに来ていたらしく、少し申し訳なさを感じた。

「心配かけて、すまない…」
「良いんだ。お前が無事なら」

そう言って、豪炎寺はふっと笑む。
――俺と豪炎寺は、同じサッカー部で、下校字は方向が一緒という事もあり、一緒になる事も多いが、幼馴染の円堂ほど、豪炎寺とは仲が深いという訳ではない。
だけど今の笑みを見て、意外さと、どこか懐かしさを感じざるをえなかった。


そういえば、と思い俺は豪炎寺に問いかける。

「…さっきまで、ここに誰かいなかったか?」
「?いや…誰もいなかったし、そんな人は見かけていないが…」

あの時も、さっきも聞こえた、あの声。
透き通ってて優しくて、どこか懐かしい、暖かな声。
あれは一体、誰なんだろう。
その事を豪炎寺に伝えると、目を閉じ、こう答えてくれた。

「神様がお前を助けたのかもな」
「…かみさま、かぁ」

俺はむくり、と起き上がり、窓の外を見る。
小鳥のさえずりが聞こえるだけで、いたって静かだ。
――朝ごはん、か。

「少し待ってろ、看護婦さん呼んでくる」

――もしも、あの声が、本当に神様だったら。
俺の助けを求める声が、届いたのかな。

「………あっ……」

――父さんと母さんは……?

俺は看護婦を呼びに行こうとする豪炎寺を呼び止める。

「なぁ、豪炎寺」
「どうしたんだ?」
「父さんと母さんは…?」

俺のその問いに、豪炎寺はうつむいた。
顔をしかめ、答えを出すべきか否か、迷っているように見える。
もしかして…という考えが、脳裏を掠める。

そして迷いに迷った末、豪炎寺はその重たい唇を開いた。

「残念だが……亡くなった」
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