【少年未来大革命論】

□2.『巻き戻してくれ』
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時間なんてものは、フツーなら巻き戻らねェモノだ。
どんなに後悔しようが、どんなに祈ろうが。戻らねェものは戻らねェ。
人の死だってそうだ。『生き返る』なんてありえねえハズ。

「お前から出た『光』…何なんだよ」
「…分からない」

俺は雨の中、おぼつかない足取りの風丸を見かけた。今にも、死にに行きそうな顔で。
そして、それを数分遅れで追いかける豪炎寺の姿。
妙に嫌な予感がして、俺もこっそり二人のあとをつけてみた。…したら、案の定。

二人は鉄塔から落下して。風丸はか細く泣き叫んでいて。
風丸を庇った豪炎寺の頭部に、赤黒い血と降り注ぐ雨。
そのコントラストは気持ち悪い程に綺麗だ。
血の気が引いて言葉も出なくて、姿を現す事も出来ず、隠れて突っ立ってた。

『俺の命、あげるからッ…生き返らせてくれよぉ…!!!』

そして、懇願するような、風丸の叫び声。溢れた光。
その瞬間に…俺の常識は覆された。
人の死は変えられない、生き返らないという、常識が。
俺も、当の本人である風丸も、それが何だったのか分からなかった。
俺は冷静を装いつつ救急車を呼び、病院に二人を連れた。

そして現れた、謎の女。
聞いた筈もないのに懐かしい、優しくて温かい、透き通るその声。

「――大丈夫?」

金の長髪、オッドアイな青の瞳の、美人な女。

「アンタ、一体…?」

結局その女は、名乗らず風丸の安否の確認と、先に見た光の正体を教えてくれただけで、どこかへと去っていった。
風丸の話によると、『自分の命を助けてくれた神様だと思う』だそうだ。
そもそも、そんな『神様』だなんて存在するとか思ってんのか?


――あれから一週間が経つ。
分からない事ばかりだ。あの日から女も姿を現さない。
風丸はあと三日か四日ほどで退院するそうだ。

「とりあえず、風丸が無事で良かったな」
「あいつの両親が助からなかったのは…残念だ」
「サッカー部に戻ってきた時も元気付けてやってくれよ、鬼道」
「ああ…」
「………………」

俺は今、鬼道と佐久間と三人で、風丸の安否について話している。
のんきな奴らだ、風丸が虐待を受けていた事も知らないで。
あいつには言うなって口止めされてるから、口が裂けても言わないけどな。

『神聖』…奇跡と呼ぶべき再生能力。
それが風丸の力、と女が教えてくれた。
可笑しな話だ、そんな能力者が身近にいたなんてよ。
けど、困惑してるのは風丸の方だ。これを知ってるのは…俺だけ。
俺は他の奴ら以上に、風丸を支えないといけない。
豪炎寺への負い目も、消えちゃいない。
また自殺するのかもしれない。
こんなに心配するなんてな…やっぱり、昔の俺と重ねているのかも知れねぇ。

俺の雲が落ち込んだ感情とは裏腹に、空は快晴。むしろ春先なのに温度が高い。うっとうしい事この上ない。
こんな街中でお前らよく話せるな。

「……けど、」

――俺はこの二人が嫌いになれない。

…はぁ、とため息をついたとき、鬼道が何かに反応した。

「………!!」
「あっ…待て鬼道!!」

突然、血相を変えて道路に駆け出す鬼道。
それを見て、止めようと駆け出す佐久間。
俺は何が起こったのかと、二人が走り出した方向を見やる。

――そこには、赤信号になった歩道を渡ろうとしている、女の子の姿。
そこを止まることなく通ろうとしている、一台のトラック――。

…あのトラックは、確か。あの時、風丸と…その親を襲った時と同じトラック……!!

『キキイィィィィィ――!!』


 * * *


…何で俺、ただ見てただけなんだろう。
トラックは三人を引きずって、大きな悲鳴を上げた。
血しぶきが、ピシャ、と道路や俺の頬に飛び散る。

「…――――――――ッッ!!!」

その鮮血の甘い香りに、思わずむせ返り、口を両手で押さえた。
動かない、女の子も、鬼道も、佐久間も。
俺は呆然として、動けなかった。
俺、何で、駆け出して、助けなかったんだよ。

『巻き戻ったら、良いのに』

そう願った瞬間。
温度にやられたか、この光景にやられたか。
突然襲ってくる、異常な目眩と耳鳴り。


――意識が放れるとき。
三つの死体の前に、ふわりとした灰色の髪の男が近づいた。
左右色違いの、赤と青の目が俺を捕らえると。

ニコリと、無力な俺を笑ってた。
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