【少年未来大革命論】

□3.『父が望む作品に』
1ページ/5ページ

――熱い。

施設の中に広がる炎。
あちらこちらから聞こえて来る悲鳴と、鳴り響く警報。
そして繋いでいる、友達の冷たい手。

友達の意識はない。
施設には他にも、双子の友達がいた。
双子の兄の方は…バラバラの死体になった。
残る弟の方は、誰かに連れて行かれるのを見かけたから、助かってるんだろう。

こいつだけは、何とかオレの手で。
そう思うけれど、煙を吸って、意識がゆっくり薄れていく――。

「て…はなさない」



――オレが目を覚ますと、辺りは焼け焦げた施設。
天井が剥がれ落ち、ガラスは割れて、逃げ遅れた大人達の死体が、瓦礫の下にごろごろと。

「………あ、」

オレは違和感に気づき、起き上がる。
繋いでいた手は、冷たくて…いや、それだけじゃない。
オレが握っていたのは、友達の手から上腕までの部分だった。

「どこにいったの…?」

辺りを見渡しても、片腕を失くした友達はいなかった。
守れなかったのだろうか、友達一人も。
この歳にして、己の非力を無表情に嘆く。

「……まだ一人、生存者がいたとはな」

…呆然と立ち尽くしていたオレの後ろから、低い声がした。
振り向くとそこには、あの時、双子の弟を連れ出した男の姿。

「その腕は…」
「トモダチ…たすけたかったんだ」
「そうか…辛かったな」

そういうと男は、オレをひょい、と抱きかかえると、いくつか質問をしてきた。

「名は何だ」
「…みょうじ、『速水』」
「名はないのか」
「ない」
「そうか、お前の歳は」
「4さい」

サングラスをかけた、影のある男だったが、オレには分かった。
この男がオレを、哀れんでいる様子が。
…すると男は、こう提案した。

「私がお前の父親になろう」
「ちちおや?」
「そうだ。お前の面倒を見てやろう」

だから私の事は、これから『お父様』と呼べ、と。
一人生き残って、独りぼっちになったオレにとって。
この言葉はどれだけ嬉しかったか…。

「ああ、それからだ…」
「?」
「お前に名を与えよう」

「お前の名は――『速水 真刃』だ」

オレはこの男、否、この人に名を与えられた。
この人は、オレの父親になってくれた。
オレはこの人の子供になった。

――そう、オレはこの日から。
『速水 真刃』となった。

オレを抱きかかえ、焼け焦げた廃屋から立ち去ろうとするとき、オレは父に問いかけた。

「おとうさま」
「何だ」
「おとうさまのなまえ、なんですか?」
「…………」

父はしばらくの沈黙の後、こう答えた。

「私の名は…『影山 零治』だ」

二度は答えないぞ、と父。

はい、忘れません、貴方の名前。
貴方の名前は…『影山 零治』。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ