【桜魔ヶ刻々生命線】

□一.『恋哀歌 前編』
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「おはようございます、悟浄」
「おー、おはよーさん」
「八戒!おはよー!」
「おはようございます、悟空」

『牛魔王蘇生実験阻止』の任を終えた一行は、もと来た地点へと戻ろうとしていた。

「…っておい、三蔵サマがまだ起きてないんですケド?」
「本当だ、いっつも早ぇーのに」
「そういえば珍しいですね…」

三蔵が起きないのは当然だ。
彼は夢の中で、『愛しい男』と再会を果たしているのだから。
起きるのが惜しい程に、余韻に浸っていたいのだ。

「起きてください三蔵。朝ですよ」
「……い……」
「あ?こいつ夢でも見てんのか?」
「寝言ですね…」

「……行くな……」

今にも泣き入りそうなその声に、こんな様子の三蔵は見たことがないと、三人は驚いた。

「ったく、誰の夢見てんだコイツ…」
「大丈夫かな、三蔵…」
「…今夜は槍でも降りますかね」
「お前が言うと本当になんか起こりそうだわ」


そのうち、三蔵は夢から目を覚ました。

「…あ…?」
「八戎、悟浄!三蔵が起きた!!」
「おはようございます、三蔵」
「……何だ、お前らか」
「いや起きて最初に言うセリフそれかい!」
「うるせぇ」

寝起きが露骨に不機嫌ないつもの三蔵。
どうやら大丈夫そうだった。
悟空は三蔵に訪ねる。

「なぁ三蔵、なんの夢見てたんだ?」
「…なんで知ってやがる」
「あなた、随分うなされてましたよ?」
「……そうか」

すると悟浄が冗談で問う。
しかしそれは真実であって。

「誰か好きな奴の夢でも見たとか?」
「―――――っ!」
「…え、図星?」

三蔵は思い出した。愛しい男の言葉を。

『好き、大好き、三蔵…愛してる』


牛魔王蘇生実験阻止の任も済んだところだ。
ここから先、どんな自由行動をしてもバチは当たらん。
三蔵は唐突に言い放った。

「悪いが協力しろ。探したい奴がいる」
「その夢の中の相手ですか?」
「あぁ、探すと決めた」

一行は三蔵にどんな奴かを聞いてみた。
だが三蔵本人は、記憶を抜き取られたらしく、姿かたちは全く覚えていないという。

「覚えてる限りだと、どんな奴?」
「名は『戎』…男で…背は俺よりも高い方だ。歳は分からん。悟空と同じくらいだろう」
「えっお、俺?マジで?」
「そもそも歳なんてとってねぇのかもしれねぇ」
「ふーん、で、そいつとどんな間柄だったわけ?」

その言葉にしばし口をつぐんだ後、三蔵は低く答えた。


「…俺はその男を愚かに愛した」
「…へっ?」
「あー…そういうことね」
「この世で最初で最後に愛した。自分の位も性別も関係なかった。恋仲にもなった。あの男以上に好きになれる奴なんざいねぇとさえ思った」
「三蔵……」


「だがあいつは消えた」


俺は何もしてやれなかった。
恋仲であったにもかかわらず、俺はあの男に『好きだ』とも『愛してる』とも言えなかった。


消える前日、戒は俺に言った。


『…三蔵』
『何だ』
『最後のこの日まで…愛しています』
『戎…?』
『それでも終わりにするのは僕なんですから』
『どうした、突然』
『…いいえ、何でも』


そして消えた翌日、置手紙には同じようなことが書かれていた。


『愛していました。最後まで、この日まで。
 それでも終わりにするのは僕なんです。
 三蔵、あなたの幸せな未来を、
 ただ願っております。

 あなたの世界で笑ったこと。
 あなたの世界を恨んだこと。
 あなたの声、ぬくもり、態度、愛の全てに。

 さよなら。』


「…どうしても会いたい。何があったかをどうしても聞きたい」
「…しょーがねーな、付き合ってやるよ三蔵サマ」
「俺も一緒に探す!」
「では僕も賛同させていただきます」
「…すまないな」

今まで付き合ってきた仲間達に協力してもらえることを、不服ながら感謝していたりして。

「その前に、もうちっと詳しく教えてくんねぇ?」
「うん、聞きたい聞きたい!」
「出来るなら初めの出会いからお願いします」
「…テメェら好きだなこういう話」

…感謝は前言撤回である。

しかし三蔵も後に引けなくなったため、仕方なく話すことにした。
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