【桜魔ヶ刻々生命線】

□三.『無形の面影』
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「八戒−−っ!飯−−!」
「はいはい、今作りますからね」
「俺も手伝う!」

朝飯の準備をする八戒と悟空。
そしてその朝飯を待つ三蔵と悟浄。
悟浄は煙草をくわえると、新聞を読む三蔵に問いかける。


「…あのな、三蔵」
「何だ」
「さっきの話、だけどよ」

さっきの話、というのは、三蔵の「捜したい男」についての話だ。
長々と語られ、捜すことには賛同及び協力はしたものの、結局はその男、『戎』の特徴はイマイチ掴めない。
それに『思い出』は覚えているのに、『男の姿かたち』が上手く思い出せないのも引っかかる。

「…そこらへんの中途半端な記憶はどうにかなんねぇ?」
「それが出来たらさっさと思い出してる」
「ですよねー…どうすっかなー」
「無理には頼まん」
「いや、そういうわけにもいかねぇだろ」

ここまでやって来たんだし、手伝わねぇ訳にもいかねぇだろ、と悟浄は頭をかく。
とりあえず、食事中に内容を全員で整理する。

「で、どんな奴だったっけ?」
「三蔵より背丈が高いんだよなぁ」
「うるせぇ殺すぞ」
「それだけで!?」

わずか数センチの差らしいが、三蔵曰く「それだけが不満だった」らしい。

「(気にしてるんですね三蔵…)あと、長髪で、額にチャクラがあること…」
「覚えてんのかよ…」
「悟浄ほど馬鹿ではありませんから」
「あれ、ねぇおかしくない?何で俺だけディスられてんの?」
「あとは僕と同じで、半人半妖なわけですね」
「まぁ、そうなるな」
「うーん、手掛かりがそれだけじゃ見つかりっこねーじゃん…」
「いやあの無視やめてくれる?」

悟浄のツッコミも無視して考えあぐねていると、八戒があることに気付く。

「そういえば、その戎さんは『ある場所で殺生をして』閉じ込められていたんですよね?」
「?あぁ、確かそうだった」
「どんな理由でもご法度っつってたな」
「殺生がご法度だったのは…確か…」


殺生が禁じられている場所といったら、もうあそこしか考えられない。

「『天界』か…!」
「天界の方にでも尋ねれば、手掛かりが得られるのでは?」
「八戒あったまいー!」
「あのオバハンが覚えてくれるといいけどな」
「ちょっと悟浄、あなたフラグへし折らないでくださいよ…」
「まぁ、聞いてみる価値はあるな」


…ちなみに悟浄が『オバハン』といった相手は、三蔵一行にに勅命をだした天界の神、及び天界を司る五大菩薩の一人、
『観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)』である。

すると、噂をすれば突然降りてきた。
神のくせして相変わらずの、口の悪い、露出の多い女だ。
…女といっても、実は『両性有具』なのだが。

『おいお前ら呼んだか』
「自愛と淫猥の神様、お久しぶりです」
『だから慈愛と慈悲だっつってんだろうが』
「呼んでないが聞きたいことはある」


三蔵は『戎』のことを一通り話した。
そして、かつて天界にそれに似た人物がいなかったか尋ねた。

『あぁ…あの大罪人の戎だろ?500年前の』
「ご、500年前!?」
『悟空、大体お前と同い年…いや今は下だな』
「マジでっ!?」
「つかそいつ、今も生きてんのか?」
『姿かたちも変わらず生きてやがる』
「天界では…戎はどんな奴だったんだ?」

三蔵からの問いを聞くと、観世音菩薩は黙り込んで、くすくすと笑った。

『世話焼きの薄幸美人といったところだな』
「へぇー、他にはどんな?」
『ガキの世話したり、義兄や仲間の心配したり…』
「…義兄だと?」
『奴は突然天界に飛んできやがった。そこをその義兄に拾われたんだよ』
「で、その義兄はどうした」
『…地上に降りようと仲間と一緒に天界軍共を殺害したが、結局は死んだな』
「嘘だろ?んな殺生な」

ある人物を逃がすためと、戎に会うためだろう、と菩薩は呟いた。
一行はその真実に言葉が出なかった。

すると八戒が、ある疑問を問いかける。

「…あの、『飛んできた』とは?」
『あぁ、あいつは"色んな並行世界に移動できる能力"を持ってたんだよ』
「タイムトラベルみてぇなアレか?」
『そうそう。で、自分の帰る次元がどこか彷徨ってたんだろうよ』
「そんな能力があんのに?」
『覚えたてで暴走しやすかったらしい』
「なるほどね」


これで一部は納得できた。
戎は『平行世界を移動する能力』を持っていた。
しかし不安定で暴走しやすく、いつ作動してしまうか分からない危険なものであった。
もしかしたら、戎はそれを予感していたのかもしれない。
その暴走で、自分が三蔵の目の前から消えてしまう事を。

『で、他に聞きてぇことは?』
「…記憶だ」
『テメェの記憶が何でねぇのか…だな』

戎の言った通り、俺の中の一部が抜けたことが原因だろうが…それだけではないはずだ。

『それはまぁ深く考えるな』
「いやどうにかしてやれよ」
『一つはお前の中の一部が、自分から出たことだろう。そん時に記憶も奪っちまったんだよ』
「そいつを戻す方法は?」
『…一部はいわば"化身"だ。互いの合意が要るだろうよ。あとはテメェが死んだら…』


互いの合意が要る、というのは、おそらく三蔵自身がその『化身』を受け入れていないからだ。


「めんどくせぇ話だ…」
『化身は、大半がそいつの前世だったりするからな』
「前世と現世じゃ合わねぇとこがあるってか?」
『にしても姿かたちが思い出せねぇって…』


菩薩は三蔵一行をじっと見つめる。
そしてニヤリ、と笑った。

『それさえ覚えていりゃあ、すぐ見つかるんだがな』
「どういう意味だ?」
『悪いがこれ以上は自分で探せ』
「…本当に不親切ですね、あなた」
『そこらへんは"双葉"に協力してもらえ』

そいつは何処の誰だ、と聞くと、天界の奴より長寿の『天使型(エグリゴリ)』という人物らしい。
人間や天界の住人、妖怪や精霊とも全く違う、存在自体が謎の存在。
そのうちの『双葉』はこの世にある生命を生まれた頃から監視しており、出来ないことも知らないこともまず無いらしい。
そのため、そいつの方が役立つだろうと菩薩は言う。

『双葉は捜さずとも出てくるだろうよ』
「…分かった」
『じゃあ、あとはお前らでやれ』

そう言い残し、菩薩は天界へ戻っていった。
…当人の言ったことはあまり役に立たなかったような気がする。


今まで黙って聞いていた悟空が口を開いた。

「あ、あのさ〜皆…」
「どうしましたか、悟空?」
「…『姿かたちはどうだった』とか、『何処にいる』とか、普通に聞けば良かったんじゃね?」
「………あ」
「…迂闊でしたね」
「何でこういうときに限って頭が回るんだよこの猿」

…なんとなく、振り出しに戻ったような感じがした。
大丈夫だ、これが三蔵一行の通常運転である。
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