【桜魔ヶ刻々生命線】

□四.『夢蜘蛛』
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――その翌日。
ジープに乗り、もと来た道を戻る一行。
もちろん、尋ね人である『戎』も捜さねばなるまい。
まずは先日、観世音菩薩の言っていた『双葉』なる人物を見つけることが、戎を捜すのに重要だろう。
しかしその『双葉』がどういう人物かは、何も聞かされていない。


「…で、結局は何の手掛かりも得られなかったってか?」

悟浄はため息をつき、頭をかく。

「なぁ、俺腹減ったー!次の町まだー?」
「さっき食ったばっかだろーがバカ猿!!」
「俺が餓死でもしたらどーすんだっ!!」
「知るかよ!勝手に死んでろ!!」

いつものように悟浄と悟空が喧嘩を始める。
…これで何度目のことだろう。
あまりのやかましさに、三蔵は後ろの二人に銃口を向ける。

「うるせぇ!黙らねぇなら撃ち殺すぞ!!」
「うわっ!その距離は当たるって!!」
「三蔵サマそれしまってください!!」

何度も銃を向けられているのだが、全く懲りない奴らで、すぐにまた喧嘩をし始める。
二人に銃を向ける三蔵を、今まで黙って運転していた八戒がやんわりとなだめる。

「落ち着いてください三蔵。"喧嘩するほど仲が良い"ということですから」
「……あ、あぁ、悪かったな」
「いいえ、良いんですよ」

八戒の言うことに黙って従う三蔵。
…悟浄と悟空はその様子を不思議に思った。

(なんか…二人ともいつもと違う?)
(てゆーか、三蔵が素直に謝っただと!?)

何も知らずに寝ていた二人にとっては、不思議な光景でしかないのだろう。

昨夜、三蔵は八戒に、想いを言葉にすることの大切さを教えてもらった。
八戒は三蔵の痛みを誰よりも一番に理解している。
それは三蔵にとって、八戒が今まで以上にどれだけ信頼できる存在になったかは言うまでもない。
…そして同時に、八戒が戎の面影に酷似していることへの戸惑いもあった。

――このなだめ方も、アイツそっくりだ。

三蔵はちらと八戒を見る。
にこにこ笑みを浮かべた、綺麗な横顔。
それを見ていると、何故か鼓動が早くなる。

――間違うな。コイツは戎じゃねぇはずだ。

だがどうしても昨夜の出来事が頭から離れず、頭を抱える。
自分の、八戒に対する見方が完全に変わってしまった。
それをこれからどうすれば良いのか…。


「…どうしました?三蔵」


こちらの様子に気付き、横目で心配そうに問う。
その翡翠の瞳に三蔵はしばし見とれながら、何でもねぇよ、と首を振った。

「…昨夜は…すまなかったな」
「え?…あっ、べ、別に何ともないですから」
「俺が良くねぇんだよ…」
「……あんまり気にしないでください…」

二人のあまりにも親密すぎる会話に、もはや空気となった悟浄と悟空は戸惑いを隠せなかった。

(やっぱなんか違えよ?どうなってんだ?)
(俺に聞くなよ!てゆーか俺ら空気だろ!)


その時、突然ジープが自らブレーキをかけた。

『キキイィィーッ!!!』

…ジープは八戒のペットで、普段は小さな白竜の姿をしているが、『ジープ』という車になって三蔵一行の移動手段に一役かっている。

「うわっ!!」
「あっぶねー…」
「…ジープ…?」
「キュー、キュー!」

一行がジープを降りると、その前には大きな陣のようなものが浮かび上がっていた。
どうやらジープは、この陣の気配に驚いて止まってしまったようだ。

「うっわーでっけー…」
「おい三蔵、何だよコレ?」
「知らねぇよ」
「…これは……?」
「八戒、知ってんの?」

どうやら八戒が言うには、これはどこかの国で用いられている『魔方陣』というらしい。
人物を召還したり、別次元へつなぐゲートだったりするそうだ。

「何でこんなとこにある訳?」
「俺が知るか」
「…なぁ三蔵、悟浄」
「あ?」
「八戒の様子が変なんだけど…」

悟空に言われ、八戒の様子を見ると、頭を抱え、何かに話しかけているようにも見える。

…この声は八戒にしか聞こえていない。


『――八戒…というのか』
「だ、誰です…?」
『……翡翠の瞳…』
「…?…あ…うぐっ」
『痛いか…頭が…』
「誰なんです…あなたは…」
『やっとみつけた…俺の欲しいもの』
「…ぁ……ぅあ…」
『八戒、八戒、招いてやるよ、さぁ、八戒』

『 こ っ ち お い で 』

「…ぅあああああぁっ!!!」
「八戒!!」

八戒は魔方陣の発する光に包まれた。
…そして光が消えたと同時に、八戒の姿も消えていた。

「八戒!?」
「キュウゥ〜〜…」
「…まさか…この陣の中じゃねーよな?」
「…飛び込むぞ!!」
「早速かよ!?」

口よりも身体が先に動いた。
三蔵につられ、悟空や悟浄も陣の中に入っていった。

――チッ、嫌な予感しかしねぇだろ…。
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