【桜魔ヶ刻々生命線】

□五.『延命治療 前編』
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「…この上だよ、俺の住まいは」


深い眠りに突いた八戒を救うため、一行は双葉の家へやってきた。
奴は一見、どう考えても役に立ちそうな男ではなかった。
だが、『夢蜘蛛』を倒したときの圧倒的な速度、威力、威圧感。全てにおいて三蔵たちをはるかにしのぐ実力を持っている。
…そしてここに来るまでのジープの運転も完璧だった。

「キュウー♪」
「おっ、ジープちゃん、俺の運転そんなに上手いか?」
「キュ、キュッ!」
「ありがとな〜よしよし…」

八戒の心配をしていたジープも、奴の運転の上手さに満足しているようだった。
そんな事はどうでもいい。問題は『この男の住まい』だ。
…それは空の上にある円盤のような物体だ。
三蔵達は、その巨大さに唖然とした。

「おまっ、コレUFOとかじゃねぇよな?」
「何言ってんだ悟浄さん、俺の家であって、UFOじゃないからな」
「うっわぁ…でっけーなぁ…」
「しかもコレ、移動も出来る便利な家だぜ?」
「だからそれはUFOだろーが!」

まぁ、茶番は置いといて、と双葉は言い放ち、パチン、と指を鳴らすと、一行を宙に浮かせた。

「うわあぁ!浮いてる!?」
「じゃっ早速中へご案内しまーす!」
「従業員かよ…」
「早くしろ」
「そう急かすなよ、三蔵さん」

ゆっくりと宙に上がり、施設のような円盤の中へ入っていった。


…中は以外にお金持ちなんかが住んでいそうな、普通の雰囲気だった。
様々な場所へ案内されると、これが先ほど見た円盤の中か、というぐらい、数多くの部屋があった。

客が来たときの部屋、広いリビング、ダイニングキッチン、大きな食料庫、そしてどういう訳か中に草原。
三蔵が双葉に問いかける。

「…何故ここに草原がある?」
「俺が作りだしたんだよ、色々やってな」
「ほぉ、よくやるな」
「閉じこもってばっかだと身体がなまってさ」
「外出ろよテメェ…」

そして最後に、ある部屋に案内された。
そこには『天使型治療病棟』と書かれていた。
中に入ると、周りには色とりどりの花が飾られており、奥のほうに大きなベッドが置いてあった。

「…ここに八戒くんを寝かせておこう」
「なぁ、何でこんなに花がいっぱい?」
「…目覚めたときが、残酷でない様に…」
「……?」
「…早く八戒くんを」

三蔵はベッドに八戒をゆっくり寝かせる。
その寝顔は、さながら眠り姫のように美しい。

――助かるだろうか、コイツは。
奴に任せて安心できるだろうか、この俺は。

三蔵の表情を読み取ったように、双葉は言った。

「安心してくれ、必ず目覚めさせるから」
「…出来なかったら殺すぞ」
「しょっぱなから宣言すんなよ三蔵…」
「大丈夫だって!信じよう?」

悟浄と悟空が三蔵をなだめる。
ここは穏便に接するしかないだろう。
…そこに、何者かが走ってくる足音が聞こえた。
双葉と同じ褐色肌に、大きな黒い瞳、ベージュの短髪。
そして悟空よりも幼い…少年。

「千速ちゃん!ただいま、お客さんだよ!」
「…千速?」
「俺の可愛い弟だ」
「…Nice to meet you…I'm glad meet you 」
「…何つった?今」
「"初めまして、会えて嬉しい”ってさ」

双葉は弟に、普通に話してあげて、と促した。
どうやら、この少年はどこかの国の言葉を混ぜて喋る癖があるらしい。

「『双葉 千速(ふたば ちはや)』…です」
「この人達には普通に話すんだぞ?」
「よろしくな!千速!」
「……!!」

悟空に放しかけられると、照れて兄の背にさっと隠れた。
人と接することは慣れていないようだ。
この男はこの円盤内からあまり外に出る事はない。
なら、弟である千速もコミュニケーションが取れなくて当然だろう。

「ごめん、この子人見知りっつーか」
「せめてコイツは外に出してやれよ…」
「俺の千速ちゃんが襲われたらどうすんだ!」
「ブラコンかよ!!」


…この男は実に理解不能だ。
常にコミカルな口調で、ブラコンで、どう考えても感覚がズレている。
一体何を考えているのか分からない。
それとは裏腹に、先の戦闘での圧倒的な実力。
これが『天使型』とでもいうのだろうか。
悟浄は、双葉に尋ねる。

「おい、双葉っつったな」
「ん…悟浄さん、『咲也』でいいよ」
「なら咲也、オメーがどんな奴か説明してくんねぇ?」
「……悟浄?」
「コッチはまだ信用しきれてねーからな」

八戒をコイツに任せるのだから、信頼すべき点と、警戒すべき点を見つけるべきだろう。
悟浄も三蔵と同様に、そう考えていたようだ。
咲也は、やれやれという仕草をした。

「しょうがないか、初めて会って信用できないとこもあるしな」
「じゃあ…俺もついでに…自己紹介」
「なら一緒に自己紹介と行きますか!」
「…真面目にやれ」
「そんなに怒るなって三蔵サマよ…」
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