【境界ドールSTILL】

□01:悲しい事
1ページ/4ページ

「……シロウ」
「あ?」


俺は誰かに呼び止められ、振り返る。
その声の人物は、ヤイバだった。

「ミッション、一緒に行くぞ」
「えっ…あぁ、分かった」

俺自身、驚くのも無理はない。
本来ヤイバという男は、常に単独行動を好むブレイザーだからだ。
それに、俺からミッションに誘う事はあっても、ヤイバが自ら誘ってくる事は滅多にない。
(それもほとんど拒否権は与えられないという強引ぶりである)
俺が本格的に復帰してからは頻繁にある。

「…ヤイバ、あのさ」
「何だ」
「一週間休んだ程度で実力が落ちる訳じゃねーし…信用しろよな…」

…一週間前の両親の事故死。
確かにあの時は酷く落ち込んでいた。
しかし、今はもう平気だ。
大切な奴らが、たくさんいるから。
落ち込んでなんていられない。

――それとも。
まだ昔の事を気にしているのか。
…ヤイバにはかつて、行動を共にする相棒がいたそうだ。
その相棒は、ある任務中に一人で敵を追い…二度と戻る事はなかったという。
それからヤイバは、仲間を信頼する事ができなくなっていた。
随分と見くびられたもんだ。また俺は信じてもらえないっていうのか?

「お前を信じていないわけではない」
「じゃあ何なんだよ…」
「気まぐれだ」

そう言って、いつも誤魔化す。
最近のヤイバは、何だか変だ。
それも、ミッションの時だけではない。
顔を合わせない日も、マメに連絡くれたりとか。
休暇が合う時、一緒に何処かに出掛けるか、とか。

――ヤイバと一緒にいる時間が多い…。

そんな考え事をしていると、またヤイバに声をかけられる。

「シロウ」
「うわっ!な、何だよ」
「今週の休暇の予定はあるか?」
「いや…ねーけど…」

ヤイバは安心したような顔つきになり、こう言った。

「なら、俺の家に泊まるか?」
「え?良いのかよ」
「こちらも予定がないからな」
「じゃあ…泊まりに行く」

そう答えると、ヤイバは少し笑んだ。
あまり見る事のない、男の笑み。
それはどこか、何か言いたげに、悲しそうで。
俺はその顔を見るたびに、不安になった。


――よし。
泊まりに来た時に聞こうかな。
何で、俺にここまで世話焼くのか。

ヤイバの笑みを見るたび、俺はそう思っていた。
もしも自分の事を気遣ってるのであれば。
その優しさはもったいなすぎて。
特にヤイバのそれは、異常なほど。
贅沢すぎて…恐い。


だって、ヤイバのは。
他の皆とは違う『優しさ』だから。
まるで、縋りつきたくなるような…。


そんな『優しさ』…。
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ