【境界ドールSTILL】
□02：誰よりも
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――俺には、好きな女がいる。
「シロ…ちょっと良い?」
俺を『シロ』と呼ぶ幼馴染、『タマ』こと『タマキ』だ。
俺の初恋で、誰よりも守りたいもの。
亡くなった両親以上に、大切なもの。
だからずっと一緒にいて、守ってやる…そう約束した。
これからも、ずっとって思ってた。のに。
「――あたしね、好きな人が出来たの」
タマのその一言で、その想いはゆっくり崩れて言ったんだ。
「…へ?」
「だーかーら、好きな人が出来たんだってば!!」
「…あー、そーか。良かったじゃねーか」
その『好きな人』…というのは、名を『ヒロアキ』というらしい。
俺が支部に来ていない間のミッション中に出会った年上の男で、物腰が柔らかく、とても優しい印象だったそうだ。
「…で、その人とまた会ってね、あたしの事、覚えててくれたみたいで…」
その出来事を話すタマの表情は、今まで見た中で一段と明るかった。
向日葵の花を思わせるような、嬉しそうな笑顔。
「それで、今度一緒にドライブに行かないかって誘われたんだけど…」
「良いんじゃねーの?別に。この際だから仲良くしとけよ」
「…良い、よね?シロ」
「いや何で俺に聞くんだよ、俺は保護者じゃねーぞ」
だから…俺にそんな相談しないでくれ、俺の気持ちも知らないくせに。
そう心の中で思いながら、「自信持てよ」と背中を押してやった。
…自分でも、時折嫌になる。
何が嫌って、素直じゃない所とか、意地を張る所とか。
正直に『好きだ』と一言、伝えるべきだったんだろうか。
…いや、出来ないな。
タマにとって俺はただの『幼馴染』なだけであって、『恋愛対象』ではない。
――あぁ、そんな事にも、何にも気付かないで、純粋に好きな人の事を想って笑っているタマ。
その顔をずっと見ていたくて、黙って話を聞き続けた。
「――それは、随分とご苦労な事だな」
「小一時間は聞かされたぜ…メンドクセー」
その日聞かされた話を、ヤイバにあらかた話した。
…あの夜以来、俺とヤイバの関係は急激に変化していった。
ヤイバが単独でミッションに行く事はほとんど無くなり、常に俺を連れてミッションに行ってくれるようになった。
そして、俺がヤイバの家に泊まる回数も増えた。(…つーか一緒に住んでるって言い方の方が正しいかもしれない)
相変わらず口悪く会話をする俺達だが、その会話の中にも温かみを感じるようになった。
「あの感じはどう考えても両想いじゃねーかと」
「なるほど」
「告白すれば一発でOKもらえるはずなんだが…焦れったくてな」
「…それが乙女心というものだ」
「…オメーがそれを言うな」
ずっと一緒にいて分かった事だが、ヤイバは結構(いやかなり)モテる。
女の人からは『ヤイバ様』『王子様』とか呼ばれてるし、実際に女の人に対しても紳士的で、まさに『王子様』って感じだ。
それに…きちんと見れば、細筋だし、顔立ち整ってるし、まつ毛は長いし。
自称イケメンの一本ヅノ(ダイチの事だ)に比べるまでもなく…。
――ヤイバは、カッコいい。
「…?俺の顔に何かついているか?」
「………別に。」
そう言って、俺はそっぽを向く。
見とれてた…なんて、言えやしない。
そもそも何で男相手に、しかもよりによって、この男、ヤイバに見とれたのか…自分でも分からなかった。