【少年未来大革命論】

□1.『俺の命をあげる』
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――その言葉を耳にしたとたん、周りの音が遠ざかっていった。
小鳥のさえずりも、わずかな足音も、風の音も全て。
一瞬にして漂白された思考の中、甲高い耳鳴りが頭の中をぐるぐる回り始める。

亡くなった? 父さんと、母さんが?
死ん…だ?死んだ、死んだ死んだ死…――

身体から力が抜けていく。顔を両手で覆った。目頭が熱くて、唇が変な風に引きつる。
…自分の頬に、熱い筋がつう、と流れるのが分かった。


それから病院の院長…豪炎寺の父や警察の人にも、どうして事故が起きたのか、と聞かれた。

俺は分からない、と答えた後、自分が両親の本当の子供じゃなかった事、突然人が変わったように、両親が俺を痛めつけた事、その後トランクに入れられ、どこかに捨てられそうになった事…。
全て、話した。

その話をするたび、「悪い事を聞いた」「辛かったろう」と慰められた。

…真実を知ったのも、傷つけられたのも辛かった。
だけどそれまでは、本当に優しい両親だった。
だから憎めない、嫌いになれない。
大好きだったんだ。
その大好きだった家族は、もういない。どこにもいない。
俺は、日に日に病んでいった。

「風丸……」

この事実を知っているのは、豪炎寺の父と一部の警察の人、そして豪炎寺だけだ。

「すまなかった……」

そんな俺の姿を見に来るたび、豪炎寺は辛そうな顔をして、謝る。

「お前が…悪いんじゃないよ…」

ごめんなさい、父さん、母さん。
俺、生まれなきゃ良かったな。
だって二人が死んだのは、結局は俺のせいだろ?
俺が殺したようなものだろ?
俺が、いなければ良かった。
そしたら豪炎寺だって、こんな辛い顔をしないだろ?

俺が 死ねば 良かったのに。


――無意識だった。
俺は雨の中、病院から抜け出し、おぼつかない足取りでどこかへ歩いていった。
辿り着いたのは…稲妻鉄塔だった。
階段を上り、稲妻町を見渡す、雨が降っているせいか、景色はぼやけて見える。

腕をフェンスの上に置いた瞬間、自分の意識が戻り、呆然とする。

「あ…れ…?俺、何で…」
「風丸ッ―――!!!」

鉄塔の下から、俺を呼ぶ叫び声が聞こえた。
その声の主は、すぐに階段を駆け上がり、俺の元へと近づいた。

「…豪炎寺」

それは豪炎寺だった。
俺が病院を抜け出したところを見て、つけていたらしい。

「飛び降り自殺でもしようっていうのか」
「ッ…分からない…」

気がついたらこの場所にいた、と話す。自分でも、声が震えているのが分かる。
すると、「馬鹿か」という声が聞こえて、額にこつん、と拳が軽く当たった。

「俺が傍にいる」

独りにしない、これまで以上にお前を支える。自分を責めるな、と豪炎寺。


…そして気づいた。
俺はこいつに、『憧れていた』んだ、と。

今まで、気づかなかった。
いや、気づこうともしなかった、といった方が正しいかもしれない。
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