【桜魔ヶ刻々生命線】

□四.『夢蜘蛛』
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『これが新しい人柱?』
『……あぁ』


三蔵たちがたどり着いた場所は、蜘蛛の巣が張り巡らされた神殿のような場所だった。

「何だ?ここ…」
「蜘蛛の巣だらけじゃねぇか、掃除してんのかね?」
「八戒!どこだ!」
「あっそうだった!はーっかーい!」
「…場所は正直どうでもいいわけね三蔵」

すると三蔵の目の前に、妖怪と黒いローブを着た謎の男が現れた。
一人は髪の毛は乱れ、血の気の無い女妖怪だ。
女はエコーのかかった声で三蔵達に問う。

『貴方達…だぁれ?』
「名乗る名はねぇよ、あいつはどこだ」
『あいつ?…あ、あの"人柱"ね』
「ひとばしら?何だそれ?」
「あー、何だ、生贄みてーなモンだ」
『ええ、そーゆーこと』

女はローブの男に合図を送った。
すると男は近くに垂れ下がっていた蜘蛛の糸を強く引いた。

…そこには糸に囚われた八戒がいた。


「イイ女がそいつに何するつもりだ?」
『いい質問ね、赤毛さん。この子はあの"夜"を迎えるには、邪魔だから』
「…何言ってんのか全然わかんねー…」
『交渉しない?この世界を思うがままにしていいから、この子を殺させてくれる?』
「……!」

その言葉に、三蔵は銃を女に向けた。
悟空たちもそれに続いて武器を構える。

「…そいつは返してもらうぞ」
「お前なんかに殺させてたまるかよ!」
「手加減はしねーぞ?」
『…ざーんねん、人間と妖怪は相手にしたくないのに』

『ビュッ!!!』

女は指先から糸を出した。
速度はとても速く、上手くかわせない。
糸が三蔵の頬を軽くかすると、生温かいものが頬をつたう。

「三蔵!」
「…チッ…!」
『よけられたのね…すっごーい』
「こいつ…!」

――八戒が目を覚ますと、目の前には女の妖怪がいた。
そしてその向こうで、三蔵達が女と戦っているのが見えた。
どうやら、随分と苦戦しているようだ。


『…目覚めたか?』
「!?」

…そうだ、自分は何者かに呼びかけられて、頭痛がして、気がついたら…。

――三蔵達が危ない!

八戒は絡まっていた糸を引きちぎり、駆けつけようとするが、ローブの男が引き止める。

『行ってどうなる?』
「助けるんですよ、彼らを」
『……何故?』
「…今まで旅をしてきた、大切な人達だからですよ」
『大切?』

男は何故大切にする、と問いかける。
八戒はそれに理由はありません、と答えた。
それを聞いた男がフッと笑った。


『変わらんな………から』
「えっ?」
『いいか、奴らを強く想え。…特に三蔵法師をな』
「…行っても良いんですか?」
『強く想え。多分、お前は一度死ぬ』
「………死ぬ?」
『三蔵を庇ってな。その時、自分の今の望みを祈れ』

八戒にはその言葉の意味が理解できなかった。
男は、八戒の背中を押す。


『…行け!』
「……はい!」


女との攻防に苦戦を強いられている三蔵達。
何度も接近しようとするが、簡単に避けられ、すかさず反撃がやってくる。

「くっ…!!」
『あーあ…動けなくなったわね』
「三蔵!」

おしまいね、と女は呟き、三蔵にとどめを刺そうと構える。
思わず目を閉じる。誰も動けない。
…一人以外は。

『じゃーねぇ』
「………!」
「…三蔵、危ない!!」

何者かに、ドン、と押しのけられる。

『ドスッ!!!』

…痛みが無いことに違和感を感じ、ゆっくりと目を開ける。
そこには、自分を庇い、女の糸に心臓を貫かれた八戒の姿があった。

「八戒!!」
「なっ…お前!」
『庇うなんて優しいねぇ…手間も省けたからいっかー』
「…はっ…かい…?」

八戒の胸が赤黒い鮮血に染まる。
その時、三蔵の脳内にあの日の悲劇が浮かんだ。
幼い自分を庇い、鮮血に染まった…戎。
そして今。
自分を庇い、鮮血に染まりゆく八戒が目の前に。
八戒は血を吐きながら、三蔵に微笑んだ。

「ぅ…あ、だいじょ、ぶですか、さん、ぞ」
「お前…何やってやがる!!」
「僕は、平気で…から、はや、く」

「ごく、達と、逃げ…てくだ、さ」


八戒は三蔵の胸に倒れ込む。
目の前が真っ暗になった。

――あぁ、また俺は。
護るべきだったのに、護れなかった。
戎に似たコイツさへも。


「…か、い…八戒ッ!!!」
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