【桜魔ヶ刻々生命線】

□五.『延命治療 前編』
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――三蔵さん、悟浄さん、悟空さん。
そして眠り姫の八戒くん。初めまして。
俺は『双葉 咲也』。
隣は俺の愛しき弟の『双葉 千速』。
どっちも『天使型(エグリゴリ)』だ。
まずは『天使型』について説明しとこう。

そもそも『天使型』っていうのは、もとは人間だったんだ。
その中で『不幸な死を遂げた人間』が、創造神に選ばれ、ある場所で『天使』になるんだ。
その『天使』としての寿命が尽きた後、不老長寿の『天使型』として、地上に再び生まれ変われるって訳。
…まぁ、生まれ変わっても、その前の記憶がある奴は少ないんだよな。
俺も千速も、そこらへんは覚えてないな。

生まれ変わったばかりの頃は、まだ人間として過ごすんだが、思春期に入ると徐々に能力が目覚めていく。
これが『天使型としての覚醒』だ。
ちなみに一度死んだり、強い希望とか望みを持ったりすると覚醒は早まるんだよなぁ。

『天使型』の役目っつったら、仲間を見つけたり、この世界を監視することぐらいだな。
困っている奴には手を差し伸べるし、悪い奴はこの世界に邪魔なんで排除させてもらう。
だから俺たちは、『天使』とも『悪魔』とも呼ばれてる。

創造神は、『誰かである前に自分でありなさい』っつってた。
つまり『自分の意思を持て』ってことか?
だから悪人であるも、善人であるも自由だな。
あ、俺たちは『善人』の方だから!

次に、俺たちの『能力』について、だな。
『天使型』の能力は、人間として生きてきたときの『因果』の大きさによる。
『因果』の大きさによって、能力の高さも多さもそれぞれ異なる。

ちなみに俺の因果は、沢山の天使型の中では一番小さいから、あんなに敵を簡単に倒せても下っ端の下っ端なんだよ。
対して千速ちゃんの因果は、5番目位に大きい方だから、俺よりも強いし、頭も冴えてるし、かなり優秀だよ。

あと、俺は『改造』と『武器化』って能力を主に使用してる。
死人を生き返らせるのは朝飯前だぜ?
千速ちゃんは『魂を吸う能力』と『接触感応』そして『音速』が主かな?何に使うか知らないが。


「…というわけで、分かった?」
「話が長くて余計わかんねーよ!」
「あはは…、ごめん悟空さん」
「ま、悪い奴じゃねぇってことは分かったわ」
「………あぁ」


長々と話を終えた後、咲也は八戒の様子をうかがった。
そして髪に触れ、頬に触れ、胸に触れる。
すると今までの顔つきが、まるでありえない、と言いたげな表情に変わった。

「…糸は心臓を貫いたのか…?」
「…分かるのか?」
「胸に耳を当ててみろよ」

咲也に言われたとおりに、三蔵が八戒の胸に耳を当てると、動いていないはずの心臓が動いていた。
…しかし、鼓動が妙に不規則だった。

「…不規則に脈打つ心臓…ちょっと厄介だな」
「何が起こっている…?」
「八戒くん、夢の中でも誰かに襲われてる」

あの男の仕業だな、と咲也は呟いた。
あの男とは、おそらく一行を逃がしたローブの男のことだろう。

「…薬の調合は二日かかる。それまで三蔵さん達は、八戒くんを監視してて」
「何で俺らが?」
「途中で目覚めて、暴れだすかもしれない」
「大丈夫じゃねぇの、コイツのことだし」
「悟浄さん、親友だろ?『器用貧乏』って合言葉があるくらい」
「ソレ答えになってな……え?」

その言葉に三蔵達は驚いた。
何故悟浄と八戒が親友だと知っているのか…。
それに気付いた咲也が、確認するかのように答えた。

「言ったろ?『世界を監視してる』って」
「…そういやそうね」
「あと何で俺が皆の前に現れたと思ってんだ」
「えっと…何だっけ?」
「『戎』って人を捜す為だろ…」


…八戒の事で頭がいっぱいになり、一行は肝心なことを忘れていたようだった。
その様子を見て、咲也はくすくす笑う。

「…何がおかしい」
「いやごめん、皆そんなに八戒くん大事にしてんだなぁって」
「……あははは…」
「さすがに否定はしねぇわ…」
「……そうだな」
「そんなに八戒くんが『戎』さんに似てる?」

その言葉を聞き、さすがの三蔵も赤くなる。
悟空と悟浄はその様子に驚いた。
この男は監視だけでなく、人の心を読むのも上手い。

「えっ…え?じゃ、じゃあ…」
「お前と八戒が妙に親密だったのって…」
「………」
「昨夜、二人で何か話してたよなぁ〜」
「それ以上黙らねぇなら殺す」
「あ、ごめんなさい銃はしまって下さい」

咲也は観念したかのように謝る。
…がしかし反省の色は見えない。
その様子に、三蔵はさらにイラついた。

――八戒が回復したらコイツぜってー殺す…。


「さ、そうと決まれば早速薬を調合しないとな!出来るだけ早く!」
「頼んだぞーブラコンさーん」
「ふふん、それほどでも」
「褒めてねーよ」

…咲也が部屋を出た後、弟である千速が、今まで閉じていた口を開いた。

「…すみません、ああいう人なんです」
「お前よ、よく一緒にいられたな」
「慣れました…から」

千速は奴とは違い、常に真面目で落ち着いている性格のようだ。
悟空が、千速の肩に触れ、問いかけた。

「なぁなぁ、さっきの『せっしょくかんおう』って何?」
「別名『サイコメトリー』…他人に触れることで、相手の意思や過去を読み取る能力です」
「へぇ〜!」

…どうやら悟空は、千速のことが気に入ったようだ。
千速の方も、接触感応で悟空の気持ちを読み取ったようで、ポケットから何かを取り出した。

「何それ?」
「チョコレートです…よければ差し上げます」
「いいの?うわぁ!さんきゅー!」
「おめー、コレ好きなのか?」
「はい…悟浄さんも…どうですか?」

またポケットから、今度はボンボンを取り出して、悟浄に渡した。

「おっ、ありがたくもらっとくぜ♪」
「…三蔵さん」
「…俺はいい」

千速は三蔵の元へ近づくと、同じようにチョコレートを差し出した。
それも、三蔵の手に触れながら。

「勝手に人の心を読むんじゃねぇよ」
「っ…気になさらないで下さい」
「…あ?」
「あなたが気に病んだら、あなたを庇った戎さんや八戒さんに、失礼です…」
「………!」

痛いですよね、心が、自分の弱さが、と千速が悲しそうに囁く。


――こいつは、人の心だけじゃなく、痛みも読み取っているというのか?
考えれば、それが自分にとっても辛いはずだ。
なのにコイツはそれでも触れようとするのか。

「食欲が無くても食べてください」
「…悪かった」

渡されたものを三蔵はすぐに口に放り込んだ。
抹茶の味がして、すぐにとろけて消えた。

「…美味ぇな」
「まだありますよ」
「マジ!?ちょーだい!」

…兄の方はさておき、弟の方はかなりいい性格をしているようだ。
コイツだけは全面的に信頼を寄せても良いだろう、と三蔵は心の中で笑った。
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