【境界ドールSTILL】

□00:幸せ者
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「……“葬儀袋”…」
「これ、私達は葬儀に出てなかったから」


…そうか、それを渡したかったから。
『ミッション』なんて言って、俺を呼んだのか。
めんどくせーから、別に良いのに。

「…ご両親の事、お悔やみ申し上げます」
「別に良いって。気持ちだけで十分だ」

俺は深刻そうな顔をする二人に笑ってみせる。
二人だけでなく、ラウンジにいた皆が安心したような笑みを浮かべてくれた。


――そう、一週間前の事だ。
俺が両親と一緒に、車で出掛けた時の事だ。
今まで俺はガーディアンの仕事で手一杯で、家族三人で一日を過ごすのは久しぶりだった。
親父と、お袋と、三人で。
口にも顔にも出さないけど、ちゃんと親孝行が出来てないって自覚はあったから。
…正直、こういう機会は嬉しかった。
当たり前のように。
これからも、一緒だと思っていた。

けど。
俺達三人が乗っていた車は。
薬物中毒の男の乗用車と正面衝突して。
俺の意識はふっ飛んで――。
目が覚めると俺は病院にいて。

運転席にいた親父と、助手席にいたお袋が死んだって。

後部座席にいた俺だけが助かってるって。

しかも相手の男も、そのときに死んでるらしくて。
怒る事もぶん殴る事も出来なくて。

俺だけが生きてるって。
俺だけが、生き残ってるって。

葬式が終わっても、俺はただ呆然としてて。
もう少し親孝行してれば。
もう少し優しくしておけば。
なんて事を考えて、色々後悔したりして。

…そんな時に、皆がいてくれた。
タマがいて、ジョナサンやクロキや皆がいて。
皆がいてくれたから。
俺は早く立ち直る事が出来たんだ。

親父とお袋が死んじまったなら、自分がその分だけ長く生きればいい。
俺がこれから出来る親孝行なんざ、それくらいじゃねーか。

皆がいてくれるから、それだけで。


「…俺はもう全然平気だからよ!」
「もう…シロってば!!」
「コイツ本当に全快しやがった…」
「良いんじゃない?元気になったなら」


それに。
皆にこれ以上心配かけさせるわけにもいかない。
だからいつも通りの俺でいよう。
笑っていよう。
アルバートを倒して、大事なものを守って。
手に入れた“S”ランクブレイザーの俺でいよう。


……だってさ。
皆にこんな風に想ってもらって。
優しくしてもらって、余計に苦しいから。
すげー、もったいなくて。
酷く“贅沢”な感じがするから。

これで俺も一応、一安心だな。
皆も、いつも通りの俺に戻った事で安心してくれた様子だ。



「………………」



――ただ一人を除いては。
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