【境界ドールSTILL】

□03:目眩象る
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「…おいシロウ」
「あ?何ですか一本角、何か用ですか?」
「だからダイチだっつってんだろ!つかなんで敬語!?気持ち悪っ!」
「ヤイバに調教された」
「えっ」
「だから教育だといっている。誤解を生むぞ」
「あのスパルタはどう考えても調教じゃねーか、ヤイバ先輩」
「えっ」

俺を未だに心配して支部にやって来たダイチでさえ、俺たちの会話についていけず、困惑の表情を浮かべる。


――俺とヤイバは周りから見て、仲が良さそうに見えなかったのだろう。
俺も仲良くはやっていけないと思っていた…今ではもう、考えられない。
プライドは高くて、口は悪い…一見、冷たく見えるのかもしれない。
けど本当は、人の事をよく見てて、縋りつきたくなるほどの優しさを持っている。

俺はいつもそれに救われている…とは直接言わない。
……我ながらカッコ悪くて情けねぇ。

「……シロウ、後遺症の方はどうだ」
「…昨夜も、後遺症が、」
「無理して来るなと言った筈だ…!」
「…すいません」

俺が事故の後遺症に苛まれるのを知るのは、ヤイバだけ。
俺の隠れた弱い部分を知るのも、ヤイバだけ。
それで良い。誰にも解ってもらおうとは思わない。

――お前だけで良い。


「「今日、暇なら………」」

二人同時に、同じ言葉が出て苦笑した。
…あぁ、温かい。むしろ熱い。
ヤイバといると時折、体温が一気に上昇するような、妙な感覚に襲われる。
理由は未だに分からないが、それが何故か心地良い。

「…っとその前に、V区寄ろーぜ」
「…何を買うんだ?」
「足りなくなったミスティッカーと…甘いモン買っとこーかなって」
「!…分かった」

――ヤイバは意外と甘いものが好きだ。
無表情だが、声色でかなり喜んだのが分かる。
俺も丁度、ドーナツとかが食べたくなってきた頃だ。
ヤイバはこの前おしるこ飲んでたから、今度はぜんざいとケーキを両方買い揃えた方が良いだろう。
他には何を買ってやろうか。
夕食は何を作ってやったら『美味い』と言わせてやれるんだろう。

「……へへっ」
「…何を笑っている?」
「いや、別に」

柄にもない気持ちを悟られまいと、俺はそっぽを向き、足早に先を急いだ。


  ◆  ◆  ◆


「…ここ、和洋取り揃えてるんだってな」
「………………」
「んだよ、ここ行きたかったんだろ?」
「……何故分かった」
「なんとなくだ」

新しく出来た店。
スイーツショップ『オンディーヌ』。
ヤイバがここに行きたがっていたのは、百も承知だ。
あまり目立たない、こじんまりとした場所に建てられている小さな店。
しかし店内に入ると…店の割に種類が豊富で、ケーキやドーナツだけじゃなく、饅頭、アイス、何処の国のものか分からない菓子、コーヒー豆や茶葉なんかもあった。

「――あら、お客さん?」

…店の奥から出てきたのは、毛先に少しウェーブのかかったセミロングと、深い青の瞳をした少女だった。

「いらっしゃいませ!スイーツショップ、オンディーヌへ!」
「…これ、全部アンタが?」
「独りで切り盛りしてるとは思えないな…」

俺たちよりも明らかに年下に見える少女が、一人で全部作っているのか…。

「んふ、すっごいでしょ?…っていうか、お二人が始めてのお客さんなんだ」
「そ、そうなのか…?」
「うんっ、来てくれて嬉し……ん…?」

少女は俺の顔を見ると、何か思い出した様な表情になった。

「へぇ…キミかぁ」
「……?」
「キミの事、あたし知ってる。何週間か前に事故にあった『シロウ』って子だよね?」

――その言葉に、俺は一瞬背筋が凍った。

…俺と両親の交通事故の件は、外部には一切もれていなかったはず………。

気がつくと、俺はバランスを崩していたのか、ヤイバに身体を支えられていた。

「っ……わり……」
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