教皇ハビ様

□キキの葛藤
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キキは深く息を吐いた。
「当時の私の能力はサイコキネシスのみ…
師の姿を見て手順などは心得ていたが、実際に修復を手掛けたことはなかった…
無力だろう?
聖衣の声なき願いが聴こえるのに
私は目の前の…力を合わせれば誰もが出来る瓦礫の撤去や墓の整理しか出来ないのだ…
そして皆、敢えて傷ついた聖衣については触れてこないのだ…
闘いは終わったのだからとな!」
珍しく声が荒い
オマケとして付きまとっていた自分が、本当にオマケでしかなかった事実…
悲しくもすんなりと現実の出来事を理解してしまったキキには、何も言われないことの方がキツかったのだろう
思い出しているだけで、彼は血が止まりそうなほど手を握りしめている…
(じゃあ何で…)
アテナエクスクラメーションで弾け消えたコスモ…
「そんなお前が何で…あいつを残して逝こうとしたんだよ!
同じ無力感や苦しみを…てめえはラキにもさせたかったのかよ!」
隣で寝ているラキを気遣ってか…一応控えめな声でハービンジャーはキキに怒鳴る
「何も…考えてはいなかったのだよ…あの時は…
むしろ、予期せぬフドウの行動と、かつて憧れた人とその場を守れる事や
師と同じものを見られたような感覚に喜びを
感じていたのかもしれないね」
「最低だな…」
「フッ…そうだね
私は君に幻滅される人間の一人かもしれないね。
だが、ハービンジャーあの瞬間では、優先は間違いなく弟子より君たちを先に進ませる事だったのは事実だよ。
私の内面的なものはべつにしてね」
理解不能とばかりにハービンジャーは頭を掻き
「それがどうして傷と繋がんだよ」
本題に引き戻した。
「君がラキの事を出すから脱線したのだよ」
薄く笑う
「悪かったな!お行儀よく話が聞けなくて!」
口を尖らせるハービンジャーの目の前で
キキは静かに腕の布を外した。
転々と箇所を替えていたのであろう傷跡が無数にある。
まるでためらい傷の様に…
「勘違いしないで貰いたいが、別に所謂リストカットとは違うよ…」
そう言うと固まりかけた傷口の横に新たに手刀を入れる…
「何を…」
何をしているんだと言おうとして、ハービンジャーは息を呑む
溢れ滴るべき血液は、吸い込まれるように腕から消えていく…
「これは分かりやすいように、少し大袈裟にしているのだが…」
話ながらテレキネシスでハービンジャーを飛ばす…
「…ここは…」
眼下にひろがる崖
「この場所は…
我が師が修復を理由に閉じ籠もってい
た場所だよ」 焦点を合わさずキキが淡々と答える
「そして…或いは仮死で
或いは死して…修復の時を待つ聖衣がいる場所だ」
「聖衣さえ見えなきゃ俺の宮と変わらねぇじゃねぇか…」
無数の人骨にハービンジャーが舌打ちする
「良かったら牛か羊…いっそ二頭連れ添う姿を作るといいよ…」
キキが冗談を言う
「お断りだね」
あっさりいい放つハービンジャーの足元に
何処かからか滴り落ちる赤い水に艶めく聖衣が現れた。
キキは無言でその聖衣に腕を伸ばす。
流れ落ちずに消えていた血液…
何もない場所から湧く水…
腕が丁度その場所に来るとよくわかる…
キキの血は家からこの聖衣に直接注がれていたのだ。
「いつからだ…」
低い声でハービンジャーがキキの腕を掴む
その力に少し顔を歪め
「聖戦の一年半後くらいからかな…ずっとだよ…
まぁマルス12宮に居た時と、アテナが聖衣を甦らせてからの闘いの間は止めていたのだけれどね…」
「ずっと…だと?」
「さすがに黄金聖衣を治すときにはレジェンド組の血液を借りたけどね」
笑って腕を振りほどく…
「一つの賭けだよ…一度に多量の血を失うと命に関わるからね
だが…それならばごく少量を注ぎ続けたらどうだろうって…
ね」
キキが自分の傷口に触れると、流血は止まった。
「傷口を移しながら、最初と最後だけは少し多めにするのが一番効率が良かったよ…」
いつの間にかキキの腕には工具が握られ、スターダストサンドが煌めく…
鉄を打つような音が風に響く
どれぐらい経ったのだろうか…一瞬星が輝いたと思うと、先ほどまでの聖衣が石に変化していた。
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