短編

□mysterious thief
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”今夜、君の笑顔を頂きます。”

今日届いた予告状に戸惑いを隠せなかった。

これを書いたのは、今世間を賑わせている話題の怪盗。

予告状には、お決まりの鳥の羽のマーク。

でもなぜ私の笑顔を怪盗が欲しがっているのか・・・?

正直意味がわからなかった。

「笑顔をいただきますって、どういうことだろう?」

予告状をほうりだして、私はベッドに倒れ込んだ。


「敦子、お待たせ。」

麻里子に相談したら、すぐに駆けつけてくれた。

「どういう意味だと思う?」

「うーん、わからないね。なんででも笑顔?」

「わからない・・・。」

何度も何度も考えたけど、答えはやっぱり見つからなかった。

「でもなんか、敦子楽しそうだね。」

少しだけ麻里子の声が弾んでるように聞こえる。

確かにちょっとだけ期待してるかも・・・。

今世間を賑わせてる怪盗に、本当は一度会って見たかったのだ。

「話題になっているしね、ちょっとだけ面白そうだし。」

「もっと悩んでるのかと思った。」

麻里子が笑いながら言った。

それから2人で他愛も無い話をして待ってたけど、一向に来る気配はなかった。

…だんだん眠たくなってきた。

「眠そうだね、敦子。寝てきたら?

ここは私が見張ってるから」

麻里子がそう言ってくれたので、お礼を言って寝室に向かった。


「やっと会えたね。」

寝室のドアを閉めた途端、声が響く。

ビクッとして、声のする方に顔を向けた。

「予告通り笑顔を貰いに来たよ。」

音もなく怪盗が目の前に現れた。

麻里子を呼ばなくちゃ、危険だって思ってるのに、全然体が動かなかった。

だって目の前の人は・・・、小さいけどすっごく綺麗で・・・。

月の光がすっごく似合ってて、思わず見惚れていた。

「どうしたの?」

あんまり私が呆気にとられてたので、怪盗がクスクス笑った。

「どうして・・・、私の笑顔を?」

やっとでた声は震えていて・・・、緊張で少し体が震えていた。

「そんなに怯えないで、君に危害を加えるつもりはないよ。

僕は君の笑顔が大好きなんだ、君はきっと僕のことを知らないだろうけど。

僕は君に笑って欲しいんだ、ただそれだけなんだ。

だから僕だけのために笑って?」

どうしてそんなに切ない表情をするんだろう?

胸がなんだか締め付けられる。

分からない・・・この気持ちは何?

戸惑ってしまう。

「お願い・・・、笑って?」

満面の笑みで紡ぎ出される言葉。

その言葉に促されるように、私も笑顔になった。

「いただいていくよ、その笑顔。

僕の名前はみなみ、おぼえておいてね。」

そういうみなみの顔が近づいてきて、チュッと軽くキスをされる。

そのままみなみは夜の闇に消えていった。



「びっくりしてたな、敦子。」

思い出しただけでもニヤニヤしてしまう、あの頃より随分綺麗になった。

「今度は敦子ごと奪うからね、待っててね。」

その頃には、自分のこと思い出してくれてるかな?

「楽しみにしててね、敦子。」


end

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