短編

□不機嫌なヒーロー
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「ねえ、みなみ。

なんで止めたの?」

仕事終わりの帰り道、敦子が若干不機嫌そうに聞いてきた。

「だって、あのままだったら敦子、力を使ってたでしょう?」

長い時間を一緒にいるからか、だいたい次の行動が手に取るように分かったしまう。

それが良いことでもあり、ダメなことでもあると思う。

だって私の事も筒抜けって事になるんだから…。

「あんな奴はちゃんと自分がしたことに気付けばいいんだよ。

あれだけの事をしたのに、警察に引き渡すだけなんて許せない。」

いつだって敦子はそうだ、被害者に感情を入れすぎる。

悪いことじゃないと思う、この仕事をやってる上では大切なことなのかもしれない。

でも…、それで結局傷つくのはいつだって…。

「それでいいんだよ、だってちゃんと裁判で決まった罰をあいつは受けるじゃん。

それが正当な罰の受け方、いつも言ってるでしょう?」

「被害者の気持ちが一番わかる方法があるのに?」

まだ納得がいってないのかな?、今日はやけに食い下がってくる。

「その能力を使ったら、確かにあいつは苦しむだろうね。

それは今まで見てきたから分かるよ、でも同じように敦子も苦しむでしょう?」

敦子は人の感じたことや思いを、そのまま他人に植え付けることが出来る能力を持っている。

だからこそその能力で、犯人に気付かせたいんだろう。

被害者の思い、感じたこと、その悔しさも全部。

敦子らしいとは思うよ、ずっと苦労してきたんだから。

でも…、

「私は能力を使って、苦しむ敦子をもう見たくないの。

あんな風になっちゃう敦子は、もう絶対嫌。」

今まで何度となく見てきた光景は、いつも胸を締め付けられるような思いに囚われる。

傷つき泣きながら、必死に痛みと戦っている敦子は酷く脆くて弱くて…。

「だいぶん慣れたもん、ってか別にいいじゃん。

苦しいのは私だけなのに。」

本気で言ってるっぽくて、なんだかカチンときてしまった。

「私も同じように苦しいし、悲しいの。

敦子、自分をもっと大事にしなきゃダメ。

いつも言ってるでしょう?ちゃんと自分の事考えて。

・・・それから、私の事も少しでいいから考えてよ…。」

分かってるんだろうか?、少しでも私の思いは届くんだろうか?

「・・・ごめんなさい、みなみにそんな顔させるなんて思わなかったの・・・。」

私は一体どんな顔をしてるの?、敦子を見上げると切なそうな顔が映る。

「もうちょっと大事にするから、泣かないで?

・・・嫌いにならないで?」

大きな瞳に涙がいいぱい溜まってて、今にも零れ落ちそうなほど。

敦子に映った私はもう泣いていて、顔はぐしゃぐしゃだったけど。

嫌いになんかなるわけないじゃん、もう私は敦子に嵌ってしまってるんだから。

弱弱しく呟いた敦子に私の涙は止まって、泣きだしそうな敦子をぎゅっと抱きしめた。


END

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