Call me MUFFIN.

□廊下を走らないで下さい
1ページ/1ページ



**



ハァハァと息を切らし、二段飛ばしで駆け下りる校舎の階段。短いスカートが宙に浮き、大股で階段を駆け降りる危うい姿をもし好きな人に見られでもしたら終わり。でも今は訳あって気にしてられない。
スカートを押さえる間も無く最後の階段をより大きくジャンプした時、空中に浮かぶあたしと廊下の曲がり角。そこで視界に入ったのは男の子。”あ、ぶつかる”とは思ったが足を止める暇なんてなかった、と言うより浮いていたのでどうにもならなかったと今更言い訳したい。

「ごめん!」

時間がスローモーションに感じた。宙に浮くあたしに驚いた顔をしていた彼に、あたしはぶつかる前に謝罪を叫ぶ。先に言っておくと、決してここで謝っておけば罪が軽くなるなんて思ってなかったはず。

どんどん近くなる彼の歪んだ顔にあたしは目をきつく瞑った。そして鈍い音と共に、頭に凄まじい衝撃。脳ミソがグワーンって揺れた気がした。あたしは彼とぶつかった拍子に軽く、色んな意味で飛んだと思う。

衝突した場所は運悪く階段の近くで、痛みで頭の回らないあたしの体とゴロゴロと転がる彼の体。サンドイッチになったまま、階段を寝転んで駆け下りる。視界がぐるぐるぐると回った。ここで言うのもなんだけど、人と二人で階段を寝転んで降りるなんて、初めての経験だ。

段差に体をぶつけまくり、比較的広い踊り場にあたしと彼は放り出される。投げ出された床の上で、あたしはううとだけ唸った。頭はお酒を飲んだ時みたいにユラユラと揺れてて、目を開ければ霞む視界にあたしはオエッと嗚咽を漏らす。二人で駆け抜けた階段を見上げれば、目の前には驚いた顔をした生徒達が数人居た。

駆け寄ってくる彼等は、あたしを見てこう言う。

「カートマン大丈夫か?」

「…大丈夫じゃな、」

え?
とてつもない違和感と共に、すぐに頭がその名前を拒否した。あたしの名前はXXのはずで、決してカートマンなんかではない。でも集まって来た人達は全員、揃いも揃ってあたしをカートマンカートマンと呼ぶ。

なんで?
カートマンじゃないのに。カートマンカートマンカートマン。カートマンって誰だっけ、激しい頭痛のせいで最早それすらも有耶無耶になってきた。

頭を押さえてゆっくりと起き上がれば、彼等は心配そうにこちらを見つめる。それらの足の間に、あたしはぶつかったはずの彼の体を探した。それはすぐに見つかり、でも違った。視線の先に居たのはスカートが捲りあがったままシクシクと泣きじゃくる"私"の姿で、黒髪を揺らす彼女は地べたに座り痛い痛いと唸っている。

自動的に口が大きく開いていくのを感じた。驚きで言葉は一つも出なかったが、彼女の元へ駆け寄り丸見えになっていたパンツをあたしはすぐに隠した。ニヤニヤした顔で周りにいた男達からBooと声が上がれば、あたしは彼等に黙れと叫ぶ。あたしは頭を抱え目先にいる彼女をもう一度見るが、上から下まで眺めても彼女はどうしたってあたしで、もしくは鏡でもない。

「きゃー!」ようやくここであたしは大きな声で叫んだが、出た声は図太いもの。「きゃー!」それに驚きもう一度絶叫しても、やはりそれは図太かった。周囲を囲っていた人達があたしを変な目で見る。

冗談じゃないと泣きそうになったけど、最早ここで泣き叫んでる場合ではないのはすぐに分かった。あたしは立ち上がり彼女の手を取りその場から駆け出す。人をかき分けて走れば、カートマン大丈夫か?って声が痛む頭に何度もループした。

メソメソしてる自分に早く走ってと声を掛けながら飛び込んだのは空き部屋。走った勢いで彼女の体は力無くヒュウと音を立てて遠くに吹っ飛ぶ。投げ出され壊れた人形のように床に転がった彼女はSith.とボヤいた。

「いてぇ、なんなんだよ。マジで」

痛すぎと頭をさすったあたし、あたしと言うより目の前に居て勝手に動いてるあたしがそう言った。そして頭にやった手を見てふと呟く。

「なんかオイラの手、細くなってる?なんだこれ」

「それ、あたしの手だから」

あたしの言葉にパッとこちらを見上げた彼女。いや、彼。彼は自分の手を見てから、もう一度こちらを見て怪訝な顔をして呟いた。

「…オイ、これまさか。テレビで見たあれじゃねぇか」

「……そのテレビあたしも見た」

「………」

眉をしかめてもう一度自分とこちらを見直した彼に、あたしは頭を抱える。

「こんなことが現実で起こるなんて、ほんとに信じられない」

あたしは重い体を床にストンと落とした。その隣でカートマンが絶叫する。

そう、あたしとカートマンはぶつかった拍子に入れ替わってしまったのだ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ