Call me MUFFIN.
□机に足をあげないで下さい
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「女の体って軽いんだな」
あたしの体で教室中をペタペタと動き回る彼は、何故か楽しそうにあたしの目の前でグルンと回って見せた。それに引き換えこちらは重くて仕方ない。あたしは部屋にあった椅子に腰掛け溜息を吐く。人間なんて全ての者が同じ動きを出来るはずと思っていたのはまったくの早合点だった。
「おデブちゃん…」
「違う。オイラは骨太だ、…って言いたい所だけど、今は関係ねぇしな」
そう言うと彼は鼻歌交じりにまたクルクルと回った。
「…なんでそんなに楽しそうなわけ?神経疑うよ」
「別に。オイラから言わせてみれば、いつまでも騒いだところでって感じだしな」
「なにそれ、じゃあどうすんのよ」
「何が」
キョトンとした顔でこちらを見た自分の顔に、あたしは情けないと顔を両手で覆った。自分で言うのもなんだけど、あたしの顔はあんなにバカみたいじゃ無かったはずなのに、カートマンが入ったせいでビッチになってる。そう言うと、オイラは頭は良い方だとカートマンが気にする様子もなくケラケラと笑った。
「ねぇ、あたし達入れ替わってんのよ?分かってる?これからどうすんのって」
「考えたところで仕方なくねぇか?」
「…あんたそう言ってれば済むと思ってんの?」
「思ってねぇけどさ、こんな楽しいことってないと思わねぇ?」
「思わないわ、くだらない話なら聞きたくないの。早く解決策を考えて」
椅子に座りつまらないと唇を尖らせ、足を机に上げた彼にあたしは野太い声で絶叫した。
「ちょっと、信じらんない!あたしの体でそんな格好しないで!!」
「え?なんだよ」
「sit up straight !」
「チッ……はいはい…」
渋々と机から足を下ろした彼は、机に頬杖をついてかったるそうな顔をした。足が開きっぱなしになっているが、そこに目をやる前にあたしは時計を見て絶望する。
「やだ…、授業始まってる!昼休みとっくに終わってるじゃん!」
「あ?もうずっと前にチャイム鳴ってたぜ」
興味無さげに言ったカートマンに、なら言えよと彼を振り返る。
「…あのさぁ、今日はこれでも良いとして、家に帰ってからはどうすんのよ」
「さぁな、成るように成るだろ」
「…はぁ?成るように成るだぁ?それは希望がある時に使うのよ」
「有るだろ、キボー」
「無いわよ!」
彼が座っていた机をドンと叩くと、まぁ落ち着けとカートマンが笑った。
「もう、なんで笑ってられるの?」
「なんでだろうな」
性格じゃねぇのと呟いた彼は立ち上がり、大股歩きで教室を出て行く。その体にちゃんと歩けとタックルをしてから、あたしも後を追った。
「お願いだからあたしらしくしてね」
「おう」
「あたしもカートマンになるから」
「はは、なに面白いこと言ってんだよ」
「面白くないわ、約束だからね」
はいはいと適当な返事と共に、思い出したようにあたしを見た彼。
「そんなことよりさ、お前なんであんな凄いスピードで走ってたわけ」
「………別に」
「今考えてみるとさ、元はと言えばお前が廊下を走るからオイラ達ぶつかったんだぜ」
「急いでたのよ、いいでしょ。なんでも」
「…ふーん」
まぁ、いいけどよ。消化不良気味に力無く呟いた彼を追い越し教室に飛び込めば、みんなの目線が一気にこちらへ集まる。あたしとカートマンを見て、ヒソヒソと内緒話を始める彼等に予想していたとはいえあたしは深く溜息をついた。