Call me MUFFIN.
□現実逃避の仕方を教えて下さい
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「ただいま〜……」
様子を伺いながらゆっくりと家へ入っていくと、にっこりと笑うカートマンのママ、リアンさんが目に入った。
「おかえり、マフィンちゃん」
「ただいま…」
ついつい顔が強張り、声が震える。リアンさんがチラリとこちらを見た。不自然に思われた?少し不安になったが、彼女の様子を見る限りバレてはいないようだった。
「今日はハンバーグなの。早く手を洗っていらっしゃい」
「あ、はい」
あたしは鞄をその場に置いて洗面所へ向かう。そして鏡を見るなり、そこに映った彼の体型に溜息が漏れた。
「…あぁ、もう」
丸い顔に丸い体、ウエストは樽みたいだし顎にお肉はあるし、何回見てもうんざりする。ぐるりと360°どこから見ても丸、丸、丸。一層大きな溜息をついたあたしは、両手を洗ったついでに水をそのまま顔にもぶっかけた。
手を洗いおえ、あたしは彼女とハンバーグの待つ椅子についた。目の前には美味しそうなハンバーグ。そういえばリアンさんは料理が得意だったことを私は思い出す。
「いただきま、」
手を合わせてフォークを掴もうとした時、リアンさんが驚いたようにこちらを見た。
「…マフィンちゃん…お祈り…」
「……え?あ、ああ!あー!つい、美味しそうだったから!!」
自分の家が無宗教だったことを忘れていた。あたしは彼女の不安そうな顔に早く食べたいねと誤魔化し笑った。
「まぁ、そうなのね。でもちゃんとお祈りはしないとダメよ」
クスクスと笑った彼女は、細い指を組んでそこに頭を添えた。お祈りの言葉を捧げている間中、あたしの心臓はバクンバクンと響いていた。
「今日のあなたは少し変ね」
うふふと笑いながらリアンさんがそう言えば、そうかなぁと苦笑いを返す。
「まるで借りてきた猫みたいだわ」
「や、やだなぁ、ママ。2匹も猫はいらねぇだろ?」
カートマンが言いそうな言葉を頭から選び出し、飼い猫のキティーを見下ろす。バカ猫のくせに、あたしに気付いているのかキティーは不思議そうな目でこっちを見てた。あたしの言葉にそうねと微笑んだリアンさんは、何事も無かったかのようにナイフでハンバーグを切る。
「マフィンちゃんのも切ってあげるわね」
「い…いや、いいよ。自分で出来る」
「あら?そう…」
もう独り立ちしちゃう頃なのねと呟いた、寂しそうな彼女からふっと視線を逸らした。あたしはハンバーグをかっ込む勢いで食べ終え、これ以上ボロが出ないようにと急いでお風呂に飛び込んだ。
「食べて直ぐに動くと牛になっちゃうわよ」
リアンさんの言葉に、あたしはもう既に牛以上だと溜息をついた。
……
「…これからどうすんのよ」
上半身裸になって、鏡の前でカートマンのあたしに尋ねる。リアンさんに関しては、鈍い人だし気付かないと思えばいいとして、次の難関である入浴。これは死活問題だ。
「お風呂入らないなんて、死んでも嫌だし…。でも見たくないし…」
そうは言っても選択肢は二つに一つ。腰にせっせとタオルを巻きつけ、勇気を振り絞ってズボンとパンツに手を掛けたあたしは、一思いに行こうと勢いよく下着ごとズボンを下ろした。
「……………何もない、何も考えない、何も……」
その後はもうひたすら心を無にして全身を洗い、あたしの辛くて仕方の無かった1日は淡々と終わりを迎えたのだった。