Call me MUFFIN.
□絶対に避けないで下さい
1ページ/1ページ
放課後、階段の上にカートマンの姿をしたあたし。そこからずっと下にあたしの姿をしたカートマン。階段の手すりを握ったあたしは彼を見下ろし叫んだ。
「ここから飛び降りて、あんたにぶつかるからね!」
あの日と全く一緒の事をするのよと彼に言えば、カートマンはこちらを見上げて心底不安そうな顔をしてみせる。
「下から見るとお前のデカさやべぇぞ?そんな巨体がのしかかってきたら今のオイラ細いし死ぬんじゃねぇかな」
即死だと呟いて厭そうな顔をした彼にあたしは酷く眉をひそめ、地団駄を踏んだ。
「巨体ってさぁ!これあんたの身体だからね!」
ボヨンボヨンと跳ねてどれぐらい動きにくいかを表現してみせるが、彼はじっくりとあたしを見てやはり違うと頭を振る。
「どう計算したってオイラが複雑骨折しちまうぜ」
なにをどう見積もってその総計を割り出すことが出来たのかは定かではないが、難しい表情をしながら彼は階段を上がってきた。あたしの横へ並んだカートマンは、ここよりももっと下へ指をさす。
「お前が下だ」
「えー、なんで?」
「実際はこの身体が上から落ちてきたんだから、その身体は下の筈だろ」
腕を組んだまま鼻を鳴らした彼にあたしはそれもそうだと納得する。
「なるほど。じゃあ勢いつけて飛び込んできてね」
大きな身体を縦に揺らしながら階段を下りていったあたしは、廊下の隅に定位置を決める。さぁ来いと両手を構えればちょっと待てとカートマンはまた悩むような仕草をした。
「ここからジャンプして飛び降りるっていうより、あの時お前走ってたよな」
「うん」
「そんでオイラはそこの曲がり角を歩いてた。じゃあお前が上から降ってきて…」
「そういえばそうだね」
カートマンが論理的なヤツだということを忘れていた。彼は感情的なあたしとは違う。ここは彼に任せようとあたしはカートマンの指示に従うことにした。渡り廊下の方から彼がひょっこりと顔を出し、あたしに最後の確認をする。
「じゃあ、行くぞ!」
彼の声が遠くの方から聞こえた。あたしは大きく返事を返す。カートマンの指示ではあたしはこのまま歩いていけば良いだけ。一歩足を前に出した瞬間、彼が走り出しのか大きな足音が廊下に響く。その音に耳を澄ませながら、どんな感じの顔をしていればいいかな、なんて考える。キュッと靴が地面に擦れるような音がして、ふと視線を上に持ち上げれば、太陽の光に輝く自分の姿をしたカートマンが高い所からこちらに飛び込んできた。
「うわぁ!!」
想像以上の迫力に腹から声を上げ、それを反射的に避けたあたし。目を丸くした彼の顔が風を切り、隣を通り抜けた。
「は?」
空中で間抜けな声を出した彼は、咄嗟にあたしの横へ見事に着地する。じわっと足首に痛みが響いたのか、着地したポーズのまま固まっていた彼。暫くしてから、ゆっくりと首だけを動かしてじっとりとあたしを睨んだ。
「…Son of a bitch」
ボソリと言った彼の声に、あたしの格好で汚い言葉を使うなと彼を宥めながらもあたしはヘラヘラと笑う。
「ごめんね、直前で急に怖くなったの」
「……」
「でも凄くない?あたしの身体!あの距離から飛んで着地しちゃうんだもん!」
興奮したように階段の上を指差し、そのまま足元にここからここへと人差し指を持ってくると彼は呆れたようにあたしを見る。
「…Screw you.」
「もう分かった分かった。避けたあたしが悪かった。ごめんって、もっかい飛んで」
「は?簡単に言うぜ、こっちも勇気が要るんだからな」
仕方ないもう一度だ、カートマンの言葉に返事をしたあたしは渋々階段を上っていく彼を見送りながら元の位置に戻る。カートマンを目で追いながら後ろ足で下がった瞬間、背中に気配がしたと思えばドンと誰かにぶつかる。
「…わ!」
「あ、ごめんよ」
グラッとふらつくあたしを後ろにいる誰かが支えてくれた。
「……いや、こっちこそごめ、」
パッと後ろを振り返ればそこにはバターズが困り眉で立っている。酷く下がった眉に疑問を持ちつつ、彼の足を踏みつけていることに気付いた。
「うわ、ごめん…!」
直ぐ様足を引っ込めて両手を重ね前にすれば、バターズはいいよとかすかに微笑んだ。
「ところで、カートマン。こんなところで何してたの?」
「え、いや、」
彼の丸い瞳があたしを捉え、モゴモゴと篭っていればカートマンから催促の声が聞こえた。
「おい!XX!何してんだよ!」
あたしの姿をしたカートマンが階段をドタドタと軽快なリズムで降りてくる。その様子にバターズは酷く驚いたような顔をしてみせた。
「うわぁ、XXも居たんだ。君ってばそんなに乱暴な言葉遣いだったっけ」
「……」
「……いや」
「それに、君達ってそんなに仲が良かったんだね。名前を交換して呼び合うほどなのか!ところでいつから付き合ってるの?」
入れ替わりに気付かない阿呆なバターズだが、咄嗟の奇妙な質問に言い訳も思いつかない。
「……」
「……」
束の間の沈黙の後、カートマンはふっと何かが乗り移ったかのように可愛らしく笑ってバターズを見た。軽やかに跳ね、両手をパンと叩いて嬉しそうに微笑む。
「カートマンと発声練習をしてたの!あたし演劇部だったでしょう?恋人同士の役を任されて、ちょうどここを彼が歩いていたから!」
「…え、そ、そうだっけかな、演劇部なんかあったけ…」
「そうなの!驚かしてごめんなさい。じゃあね!」
彼のあまりの変貌振りに目を丸くしていたあたしの腕を強く引っ張ったカートマンは、バターズにヒラヒラと手を振りながら階段を降りていく。状況が掴めないように惚けたままのバターズは、バカみたいな顔でこちらへ手を振ってた。
……
踊り場へ出たあたしは握られていた手を握り返して彼を羨望の眼差しで見つめ、その手をブンブンと振るった。
「カートマン!凄いよ!ナイスフォロー!やれば出来るんじゃん!」
「ああ、痛いから離せよ」
「あ、ごめん」
パッと手を離せば、今日はもう終わりだって呟いた彼はトコトコと前を歩いていく。
「でも本当に凄いよ!あの状況でよくあんなぶりっ子出来たね!」
「うるせぇな、もういいから」
少しばかり照れているような彼の顔に微笑みを返して、あたし達は校舎を後にした。