Call me MUFFIN.
□ブラックジョークはやめて下さい
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「カートマン!パス!」
バターズの声にあたしは”カートマン”の巨体を揺らす。
「は、はい!」
「そのままゴール決めろ!」
「え、うわぁ!」
スタンの掛け声に大きく返事はしたものの、飛んでくるバスケットボールをあたしはギリギリで避けた。地面にダンと落ちコート外に出たボールに「dude!」と一斉に声が飛び交う。
「カートマン!ドッチボールじゃねえんだから避けんな!」
同じ色のチームウェアを着たスタンの大声があたしの耳を突き刺した。敵チームのクレイグ達はケラケラとこちらを指差し笑ってる。ばくばくと心臓を鳴らすあたしは、険悪な雰囲気を醸す同じチームの彼等へ視線をやった。
「…ボール早いし怖いんだもん」
「はァ?お前女かよ!」
「だって目の前に来るから…」
唇を尖らせれば、あからさまなスタンの舌打ちが聞こえる。とりあえずボールを拾おうとコートを出れば、襟から空気を送るようにパタパタと胸元を扇いだカイルは顎を斜め上にやって言った。
「もういいよ。カートマン外せば」
両手にボールを持って、あたしはコートの端に突っ立ったままだ。眉をひそめたスタンがカイルへ目をやる。
「外したら5対4になるけど」
彼の言葉になんでもないと言いた気な顔でフンとカイルは鼻を鳴らした。
「良い。人数よりも、カートマンが重いハンデだよ」
途端にゲラゲラと笑いだす彼等に、あたしは固く口を閉じる。周りを見渡せば、みんなの高く吊り上がる口の端が怖い。突き刺さる言葉は、全て冗談のつもりで言っているのだろうか。いつものカートマンなら彼等の倍程はキツい言葉を返してるけど、あたしはカートマンではなく"XX"なのだ。
激しくなる心拍数に不安を覚え、彼らの視線に恐怖を感じた。苦しい呼吸に耐えられなくなりその場に座り込もうとしたあたし。
「カートマン!ボール!」
「…あ、」
どうやら自動的に補欠にされたらしい。片手を広げてボールをせがむトークンに向けて、握りしめたバスケットボールを投げようとした時、ヒュッとあたしの手からボールが無くなった。
「……あ、れ」
目線を下にやれば、手はボールを持っていた形のまま時間が止まっている。直ぐに視線を上げあたしは目を疑った。
「ハハハッ!」
目の前でダンスをするように軽快なドリブルをしてみせるのは”あたし”の姿をしたカートマン。短いスカートをふんわりとひるがえし、みんなの間をすり抜け軽やかにゴールへ走っていく。
「え、XX…?」
「おい…嘘だろ」
騒つく彼等なんて気に留めることなく”彼女”、もといカートマンは軽々とシュートを決めた。ゴールの軋む音が静かなコート内の空気をじんわりと変えていく。
「あっはは!身体が軽いっていいよな!」
大口を開けて、カートマンはその場で大きく伸びをする。その姿を最初から最後まで見守ったスタン達の目は真ん丸で、口元を緩めたままカートマンを見てた。
あたしは背筋がゾッとする。
「ちょっとカートマ、…じゃなくて、XX!」
冷や汗が背中を伝った。
「最っ高だな!見たかよ、お前ら!」
あたしの言葉を無視し、立ち尽くす彼等を指差した彼。あたしはもう一度自分の名前を口からこぼす。
「XXっ!!」
「なんだよ、うるせ…」
言いかけたカートマンの言葉はカイルの叫び声に掻き消された。
「dude!お前すげぇな!!」
「やべぇよ!最高にイケてた!」
満面の笑顔で彼の周りに集まっていくカイル達。あたしといえば、駆け寄るタイミングを見失っていた。
「そこら辺の女子と一緒だと思ってたけど、違ったんだな」
「カートマンの代わりにXX入れよ!」
先程の重い空気は何処へやら、コート内には明るいみんなの声が響き渡っている。彼の派手な登場で雰囲気がガラッと変わったのだ。
騒ぐ彼等の輪の中で、カートマンはにんまりと微笑みあたしを見てる。その姿はとても眩しく心をざわつかせ、入れ替わった”カートマンのあたし”があんなにも輝いて見えたのは、きっと初めてだった。