Call me MUFFIN.

□「Kyle is very hot…!」
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(カートマン 過去)

思い出すのは彼女の綺麗で艶のある髪と、漆黒の瞳に華奢な手足。ベーベ達のヒソヒソ話やスタン達の色めき立つ声。あとは彼女の真っ直ぐなその視線。そう、彼女は転校生だった。

XXがここ、サウスパークの小さな学校にやってきたのは去年の屋外が少し肌寒くなる頃、俺たちはまだ8歳だった。どうしてそんな中途半端な時期にこんな田舎町にやって来たんだって、みんながみんなそう思ったと思う。でもオイラはそんなことよりも、彼女とどう仲良くなろうかで頭がいっぱいだった。

「XXです、よろしく」

暗髪の異国人。みたいな感じで、この小さな小学校で彼女が噂になるのにそう時間はかからなかった。それはオイラ達も同じで、クラスで一際目立つ彼女の話をしない手は無い。

「なんか、いい匂いがするんだよ」

休み時間。オイラは集まった男達の真ん中で声高々にそう言う。実際、サラサラの黒髪がなびくたび彼女からは良い香りがした。甘いバニラと百合の花を混ぜたような、いや、ムスクかジャスミンか。それともシャンプーの匂いか。もしかするとイランイランなのかもしれない。

「イランイランって、小学生が?」

「雰囲気で言ってみただけだ」

スタンの突っかかってくるような言葉に、オイラは溜息交じりに返事を返した。

「イランイランの雰囲気って何よ」

それをどこで見ていたのか、オイラの発言を見逃さないのはベーベ達。彼女のつんけんした口調がやけに鼻に付く。恐らくこいつらはXXが持て囃されているのが気に食わないのだ。

「それか、インラン女ってことかしら」

ベーベが言えば、それを取り囲むローラやレッドもクスクスと笑い出す。ウェンディなんてもってのほか、スタンへ釘を刺すように彼女とは口を利かないで…とか。

「女共は汚いぜ」

「まったく、転校生が可哀想だ」

「クラスに馴染めるように、早めに対処しないとな」

「まぁそうだけど、」

俺はウェンディに怒られるからおりると呟くスタンの隣で、トークンとクレイグが顔を合わせて作戦を立てている。ケニーは彼女に話しかけるチャンスを伺っていて、カイルも表には出さないけど彼女を狙ってるはず。バターズに関しては論外だからいいとして、オイラはどうしよう。
考えるふりをして彼女の方へ目をやれば、XXはクラスの端の方で大人しく本を読んでいた。

「やっぱイケてる。クラスの女子がカスに見えるぜ」

「分かる。大人っぽいよな」

「ベーベ達みたいに悪口とか言わないんだぜ、きっと」

ますます彼女への妄想が膨らんでいく。女も男もみんながみんな、良くも悪くも彼女のことを考えてる。誰がまず先に一手を取るのか。
そう思っていたのも束の間、”俺やっぱ話しかけてくる”と真っ先に立ち上がったのは意外な事にスタンだった。先を越されたとは思いつつも、取り残されたオイラ達は目を丸くするばかり。

「やぁ、XX。何読んでるの」

ウェンディは良いのか?なんてツッコミは置いといて。

「おい、抜け駆けすんなよ!」

後を追うようにオイラとケニーとクレイグとが、彼女の元へ走る。あとバターズも。

「カートマンだ。そんでその他諸々」

「なんだよ、ちゃんと紹介しろよ。俺はクレイグ」

「僕はバターズだよ。よろしく」

バターズの隙間を縫うようにケニーも自己紹介していたが、彼の篭った言葉が分からないのか彼女は戸惑った顔をしている。
しまった。少し先走り過ぎたか、なんてみんながそう思ったその時。

「カイルです、よろしく」

スマートに差し出された手。

「…カイル、よろしくね」

控え目に微笑んだ彼女は、迷う事なく彼の手を取った。「Oh, shoot!」これが正解例だったか、ここに居るみんながそう思ったはず。

「ずりーよ、カイル…」

「ほんとしっかりしてるよな…」

溜息交じりのスタン達の隣で、彼女の瞳はキラキラと輝いている。その視線の先にはカイル。オイラはその二人を目で追う。見つめ合う彼等、それはもう不思議な空間だった。


「あたし、一目惚れだったんだ」

その言葉を聞いたのは、彼女がもうとっくにここに馴染んでいた頃。ウェンディと二人で盛り上がっていたのを盗み聞きしたのだ。

「カイルって超イケてるよね。頭良いし、大人だし、紳士だし。なんてったってあの髪の毛がキュートなの」

オイラだって。カイルに負けず劣らずのユーモアと知識があるし、あんなママを受け止められる包容力も兼ね備えてる。あの赤毛が可愛いと言うのなら、オイラも君のために赤毛にする。なのに。

「カイルが大好きなの!」

その言葉がもうずっとずっと耳から消えない。
それでも君のためなら、オイラは。

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