Call me MUFFIN.
□「Do you like Kyle?」
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(XX 過去)
その話を聞いたのは、サウスパークに引っ越してきて半年程経った頃だった。確かあれは四年生の夏。
「あたし、カイルと付き合うかもしれないわ」
頬を赤く染めた彼女が吐いた言葉に、心臓が強く鳴ったのは言うまでもない。
あたしをおびやかす犯人。クラスのカーストでも力のある上位にいる金髪の彼女の名前はベーベ。なんて言ったって彼女には発言力がある。たとえそれが白だとしても、彼女が黒だと言えば、黒。Yesだと言えば女生徒皆がYesだと謳う。
その証拠にベーベはあたしが転校して来た時から、クラスでとても目立つ存在だった。その上、彼女は自分が一番で無いと気が済まないタイプの女の子。最初の方はライバルのようなものにされていることが目に見えて、それが嫌で嫌で仕方なかった。だからといって直接何か手を加えられる訳ではないが、視線が痛かったことや居ずらかったことは確かに覚えている。
それでもなんとかウェンディのお陰で今は落ち着いている、ように見えるだけで、いつか彼女があたしの寝首を掻きに来るはずだということはなんとなく分かる。
「どうしてカイルと付き合うかもしれないって思うの?」
そう尋ねたのはレッド。ついでをいうといくら同じグループと雖も、女子グループにはなんとなく派閥があり、あたしはウェンディ派だが赤い髪をした彼女はどちらかというとベーベ派。白い薔薇の花を赤色に塗り替える女だ。
レッドの質問にベーベは目をうっとりとさせて言った。
「運命を感じるの。今日だって何度も目が合ったわ」
「運命ね、羨ましいわ」
そう答えたウェンディが心配そうにあたしの方をチラリと見た。彼女と目があったあたしはヘラッと弱い笑顔を返す。そんな目配せに気づくはずもないベーベは、一際大きく手を叩いてを立ち上がった。
「そうだわ!今日辺りにでもデートに誘ってみようかしら」
「今日?それは急じゃない?」
まともとも取れるローラの言葉だが、ベーベは聞く耳も持たずウェンディの肩に触れる。
「放課後、”スタンとウェンディ”、”あたしとカイル”でダブルデートしましょうよ」
いやに主張されるカップルになる二人の名前にあたしは眉をひそめた。
「…え?ええ……まぁ、いいけど」
戸惑う彼女の視線はあたしを捉える。あたしはただただ、彼女に崩れそうな笑顔を向け続けた。
………
どうしよう。
校舎のベンチで一人、あたしは頭を抱えていた。立ち上がってはまた座り、出てくる言葉は”どうしよう”それのみ。そんな悩めるあたしの側を通ったのは、この話になんら無関係のカートマンだった。
「よぉ、XX」
「あぁ…Good bye.」
目を合わせることもせず彼に手を振れば、ちょっと待てよと戻ってくるカートマン。ボテボテとこちらに走ってくる彼の姿はお餅みたいで醜い。こんなのにだけはなりたくないなと心から思う。
「そうじゃねぇだろ」
「え?」
「バイバイじゃねぇだろって」
「…は?……See you.」
「いや、そういう意味じゃなくて。ジョーク言ってんじゃねぇの」
「もう、なに?あたし今忙しいの」
髪をかきあげて面倒だなという顔をして見せれば、カートマンは何故か悟ったような表情をする。
「困ってんだろ?お前」
「困ってないわ」
「あ?なんだよ、素直じゃねぇな」
「困ってないもの。早く向こうへ行って」
「カイルのこと好きなんだろ」
あたしは咄嗟にカートマンを見上げた。視界に映る彼は何故かニヤニヤと微笑んだままこちらを見下ろしてる。それが厭に気に障った。
「………だから何」
「別に。その事で悩んでるんだろうなって」
「そうだとしても、あんたには関係ないでしょ」
「まぁ、ないと言ってしまえば無いな」
重たそうな腹を揺らしてあたしの目の前に立つカートマンは至極目障り。一体何がしたいんだと、あたしはグッと唇を噛む。
これじゃあラチがあかない。もういいと立ち上がろうとしたその時、カートマンがあたしの腕を掴んだ。
「待てって」
「…離してよ」
「協力してやるって言ってんの」
「いい、要らない!」
バシッと払いのけた手。鬱陶しいとカートマンを置いて歩き出したあたしの目の前に現れたのは、ウェンディとスタン。それにベーベとカイルだった。