Call me MUFFIN.

□「Page 28」
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(ケニー 過去)

女の子なら誰でもいいよ。性格悪くても、男でないなら別にいい。顔だって誰よりも許容範囲は広いし、痩せてても太っててもどっちでもいい。
でも、本当は僕のことを本気で好きな子が一番良い。

…………


「あれ、似てる……」

パパの部屋にあった薄い雑誌には裸の女の人がたくさん載っていて、僕もいつかこんな女の人とって何度も夢を見る。関係ない話だけど、カートマンはクラスの誰よりもそういう話に詳しいし、なんとなく話が合うからよく一緒にいる。
XXちゃんを初めて見た時、僕はあの雑誌の28ページ目で笑うお気に入りの黒髪美女と彼女をかぶせてしまった。あまりにも似てるから、クラスで美人なんだって叫んじゃったけど、彼女は間違いなく可愛いよ。
隣の席になれなかったことはすごく残念だったけど、僕はずっと見てたんだ。

スタンの隣に座った転校生のXXちゃん。細い黒髪をパラリと揺らして席に腰掛けた彼女は、僕から見れば骨みたいに細くて白くて、なんかで見たことある日本の人形みたいだった。彼女が隣に座ったことに気付いたスタンは頬杖を付き無言のまま彼女をただ見つめてた。きっとウェンディと似てるところがあると、彼も気づいている筈。
そんな彼の視線を、彼女が気付くのに時間は掛からなかった。揺れる彼女の細い黒髪。目が合うなり、彼女はスタンにニッコリと微笑み”Nice to meet you.”とだけ言う。その瞬間、頬杖をついていたスタンの頭がガクンと落ちかけたのを僕は見た。それよりも、彼女が思った以上に可愛い事に驚く。恐らくそれはカイルも同じで、彼女を指差し口笛を鳴らした。

「dude.今の見たかよ。あの子、よく見りゃ可愛いじゃん」

「ああ、思った」

カイルの言葉にカートマンがそうだなと軽く頷く。後ろに居たバターズがほらねと自慢気に笑えば、今まで黙って居た他のクラスメート達も彼女を見るんだ。ほらね。


「黒髪の異国人、って感じ」

昼休みにみんなの輪の真ん中で、カートマンがポツリとそんな事を言えば、B級映画のタイトルかよってカイルが呟いた。隣にいたスタンは心ここに在らずで窓の外を見つめてる。
確かにその通りだと思った。B級映画のタイトルっぽいし、黒髪の異国人だし。スタンはぼーっとしてるし。

「この人に凄く似てるんだ」

僕は28ページ目の彼女を指差して言った。途端にうわぁとみんなが驚いた顔をする。

「裸だ!」

バターズが興奮したように言って、お母さんの以外見た事ないとクレイグが目を丸くした。足を大きく開いて笑顔のない表情で僕達を見下ろす彼女、やはり見れば見るほど酷似してる。顔というよりも雰囲気。きっと、この雑誌の彼女も異国人だ。
でもみんなは似てるというよりも裸のお姉さんに興味があるようで、誰もそのことに触れてくれなかった。

「こんな先生がいたらいいのに」

「授業になんないよ」

「女子達が嫉妬するぜ」

「ああ、しそう」

「でも嫉妬したところで」

比べ物になんねぇよなんて誰かが言えば、みんなも笑い出す。それは僕も同意見。このクラスの女子はみんなまだ子供で、ついでをいうと思考回路もお子ちゃまだ。でも彼女は違う。XXちゃんはクラスの誰よりも目立ってるし、漂う空気感が別物だ。
ほら、それを理由づけるようにクラスの女子達が彼女の噂話をする。ヒソヒソと、わざと聞こえるように。インラン女とか、そんな言葉よく使えるよビッチ。
でも彼女は気にもしてないように本を読んでる。

「クラスの女子がカスに見えるぜ」

「分かる。大人っぽいよな」

「ベーベ達みたいに悪口とか言わないんだぜ、きっと」

みんなが盛り上がる中、ふと立ち上がったのはスタン。

「…俺、やっぱ話しかけてくる」

スタスタと歩いていくスタン。
え?ウェンディはいいの?なんてみんなが思ったことだろう。
乳臭いウェンディなんてやめなよ、僕はケラケラと笑って彼の後を追う。
近くで見る彼女は、やはり可愛い。少しこわばった笑顔でみんなの名前を復唱しているところがまた。
そしてカイルが手を差し伸べれば、彼女はその手をそっと取る。
成る程、カイルみたいな男が好きなのかとカートマンが昼休み後に呟いていた。

「…………」

28ページ目の彼女を見ていれば、有り余るパワーが…なんてスタンが言っていたことを思い出す。
彼女はまさにそう。この教室に居る事が違和感で、有り余るそのパワーはみんなを脅かすのだ。一輪の花、というよりも、一つのブラックホール。

青春の28ページ。
彼女は僕のブラックホールだ。

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