Call me MUFFIN.
□授業を妨害しないで下さい
1ページ/1ページ
「先生見えませーん!」
静かな教室に響く、あたしの殻を被ったカートマンの大声。その声にギャリソン先生が少しだけ驚いたような顔をして彼を振り返る。それと同じくあたしも彼を見た。クルクルとペン回しをするカートマンに、戸惑ったようにギャリソン先生が言う。
「…珍しいですね。XX、あなたが授業中に大きな声を出すなんて」
「そうですかぁ」
「でも遅刻してきた上に、授業妨害はよくありませんね」
目を丸くする先生に、それあたしじゃないんです!なんて言えるはずもなくあたしは小さな声でFuck.とだけ呟いた。それでも御構い無しにカートマンは続ける。
「遅刻はちゃんと謝りました。で、先生が邪魔で黒板が見えないんです」
「そうですか…、でも我慢してください。もう少しで終わるので」
「ええ、でもさ」
どこの顔の筋肉を使えばそんな顔ができるんだ、みたいな表情をしたカートマンにあたしは我慢が出来なくなって立ち上がり怒鳴った。
「うるさい!カー、……XX!」
「え?”カ”ってなんだよ」
「黙れ!黙って授業受けてろ!」
私の怒鳴り声にカートマンがチッと舌打ちをして黙り込んだ。クラスの子達は不思議そうな顔であたしとカートマン、もといあたしの姿をしたカートマンを見てる。鼻をフンと鳴らして席に座ったあたしはとても変な気分で、自分を叱る日が来るなんて思わなかったと頭を抱えた。
帽子を取り短いミルクティー色の髪をかきあげ、ああと唸ったあたしを隣に居るカイルが変なものを見る目で見てる。カートマンがいつも見ているであろうその凍った視線に、とてつもなく泣きたくなった。彼の瞳にあたしが、あたしではなくカートマンとして映ることがなんとも悲しく切なかった。
「なんかさ」
「え?」
唇を噛み締めたあたしにふと声をかけてきたのはスタンで、あたしはカイルから視線を逸らしスタンを見た。頬杖を付いたままこちらを見据える彼は真顔で呟く。
「今日のお前、変」
その言葉に心臓が飛び跳ねた。入れ替わったということがバレるどうこうよりも、彼にこの奇妙な事態が少しでも見抜かれていることに驚いた。でも冷静なスタンなら突拍子もなくそんなこと言いかねないし、多分この言葉にあまり意味はない。それを表すかのように彼はそれだけ言うとすぐに前に向き直った。
やはりそうかと思い、あたしは溜息をつく。気づいて欲しいけど気づいてほしくなかった。その曖昧な感覚が気持ち悪く、心臓のあたりがムカムカする。
………
授業が終わった瞬間、あたしは直ぐにカートマンを廊下に呼び出した。ドアにもたれ掛かり、彼はあたしの格好をしてかったるそうに耳に指を突っ込む。その手をバシンと叩いて払い、あたしはカートマンを睨んだ。
「あんたどういうつもりなの」
ニヤニヤしてる顔はあたしの質問に答えるつもりがないらしい、私の言葉を無視して彼は笑った。
「オイ、”なの”とかやめろよ。オイラがゲイだと思われるだろ」
バカみたいな顔をした彼は、指をパチンと鳴らしてあたしの口元を指差した。
「ならあたしの格好で汚い言葉使うのやめて」
「それはお断りだ。これが俺だからな!オイラはオイラらしく生きる」
「は…?わけわかんない上にそれ約束と違うでしょ!」
「なんのだよ、バカかよ」
「どっちがよ!ふざけんな!」
「だから、やめろって女言葉。お前がやめないならオイラもやめないぜ?」
「……」
「ほら、オイラの言葉で言ってみろよ」
厭そうな顔をして言った彼に、あたしはそれもそうだと思った。改善しようと頭を悩ませ、カートマンのいつもの口調を思い出し話す。
「…あー、もう……クソ。だから、約束と、違うだろ…ビッチ」
低い声で彼がいつも言うみたくそう言うと、カートマンはゲラゲラとあたしを笑った。その顔にあたしはぎょっとする。
「本当にオイラだな、鏡見てるみたいだぜ?ウケる」
くしゃっと綻ぶ目先にあるあたしの顔。自分が自分を嘲笑ってる、そう思えば思うほどふつふつと湧き上がってくる苛立ち。
「God damn it !」
「あ、おいおい。オイラのままで汚い言葉使うなよ」
「Shut up, それとさ、足開かないでくれない?スカート履いてること忘れないで」
「サービスだよ、サービス」
ゲラゲラと笑ってイヤらしく腰を揺らしたカートマンの頭を間髪入れず拳骨で殴れば、彼は大きく口を開けてあたしに言う。
「おま…、お前容赦ねぇな!自分の体をグーで殴りやがったぜ!」
「いいのよ。あたしの体そんなに弱くないし、中身アンタだし」
「嘘だろ…いってぇ……中指の骨で殴ったな…」
「とにかく覚えておいて、あたしはみんなの前ではアンタらしく振舞うし、アンタもそうして。で、次要らないことしたら捻り潰すからね」
「は?何をだよ?」
不思議そうな顔をして首を傾げた彼に、あたしは今のあんたの体に無いものだとだけ言った。その言葉の意味に気づいたのか彼の顔はひどく歪む。
「お前下品にもほどかあるだろ。それにしても嫌なこと言うよなぁ…」
眉をひそめてあたしにそう言った彼をあたしは無視して、淡々と部屋に入っていった。