Call me MUFFIN.
□人を騙さないで下さい
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カートマンの体はもう嫌だって、そう思ったのは入れ替わってから早くも1時間後の事。あたしはカートマンと別れた後、廊下に居たベーベ達に声をかけた。
「ねぇ、ベーベ」
「…え?」
「あのさ」
あの事なんだけど、そう言いかけてあたしはピタリと言葉を止めた。彼女があまりにも不審な目でこちらを見るものだからあたしはハッとしてして、そういえば今はカートマンなんだって事を思い出す。
「…何か用かしら?」
眉間に皺を寄せあたしを催促してきたベーベに、やっぱ何もないと言ってあたしはその場から逃げた。
「もうカートマンやだぁあ」
でかい体をボテボテと揺らして、あたしは半泣きで廊下を走る。すれ違う人達みんながあたしを振り返って見た。
「おい、カートマン!」
誰かの横を通り抜けた時、ふと名前を呼ばれたが、それが自分の事だとは思いはせず振り向くことはしなかった。なら彼はあたしの肩をガシッと掴んでくる。驚いて振り返れば緑色が視界に沢山飛び込んで来た。
「無視すんなよ」
「…ごめんなさ、」
目の前に居たのはカイルで、彼は少し不機嫌そうな顔であたしを見据える。彼のキリッとした瞳にあたしの視線は宙をぐるりと回った。
「チャイム鳴ったぜ。そっち、教室と逆だから」
「……あ、ありがとう」
「……」
一瞬変な顔をしたカイルだったが、すぐにあたしから視線を逸らし教室の方へ歩いていった。あたしもその後ろを付いて行く。
「…またなんか企んでんの」
「え?」
「なんか今日のお前気持ち悪いよ…」
彼がどんな顔をして言っているのかは表情を伺えないので分からないが、重い一言にショックであたしの視界が暗くなる。気持ち悪いなんて言葉初めて言われた。
「…そうかな」
それだけしか出てこなかった。俯くあたしを振り返ったカイルは、先程まで前を歩いていたのにこちらに歩調を合わせて隣に並んでくる。
「やっぱ変だよ。なんか大人しいしさ、なんかあった?」
「…別に」
「言えよ。話聞くだけなら出来るからさ」
「…何も無いことはないけど」
彼の方をチラリと見ると、カイルもこちらを見ていた。彼の真剣な瞳にあたしは少しだけドキッとする。
そして何故か急に冷静になった。こんなしおらしい人間、カートマンじゃない。こんな所見せてカイルがカートマンを好きになったらたまらない、なんてどうしてそう思ったとか定かでは無いあたしは、腹から大きな声を出した。
「あーーーやめたやめた!こんなのオイラらしくねぇ!」
「……な」
突然叫び出したあたしにカイルの目がギョッと丸くなる。そんなカイルに指をさし嘲笑った。
「Jew ! 騙されたな!バカが!演技の練習だよ!バーーカ!」
「カートマン…お前」
眉をひそめたカイルの表情に、心臓が鷲掴みされた気がした。あたしは彼の顔をまともに見る事が出来ず、頭を下げたまま走り去る。涙が出そうになったけど無理矢理押し殺した。後ろにいるはずのカイルはあたしに何も言わなかった。