Call me MUFFIN.
□「My name is Kyle.」
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(カイル 過去)
鼻をよぎる甘い香り。さり気ないボディタッチ。艶のある唇とサラサラの髪。きめ細かい肌と柔らかい感触。丸みのある曲線的な身体。絶妙に空気を読めるその頭脳。甘いものが好き、可愛いものが好き。馬鹿馬鹿しい程あざとくて、なのに守ってやりたくなる。それが女。
「女ってたまに怖いよな」
僕は今まで付き合った歴代の彼女の言葉を思い出しながら、スタンの方を見た。彼は興味無さそうにこちらへ目をやった後、そうだなとだけ言う。iPhoneを片手に頬杖をつくスタンは、画面から目を離さずに続けた。
「たまにどころか女って常に怖いぜ」
そんなことを言いながらも、ウェンディからメッセージが来たのか、ふと笑顔になるスタン。そんな彼の少しダサい様子を横目で眺めながら、なんかさぁと僕は付け足す。
「怖いっていうより、ヤバい時、あるだろ?」
「……んー」
「狂気に満ちてるというか、さぁ」
「あー…そうだな」
スタンの上の空な返事に僕は眉をひそめる。
「…なぁ、スタンってば聞いてんの」
「え、…あぁ、聞いてるって。それよりさ」
話の腰を折るスタン。聞いてないじゃん!なんて言う訳にもいかず、何?とだけ返す僕にスタンはバツが悪そうな顔をする。
「なんか、ウェンディがさぁ…」
………
「ね?いいでしょう、カイル」
前略であれだけ女がどーのって言った僕だけど、別に女の子が嫌いっていうわけじゃない。
「あたし達って凄くお似合いだと思うの」
四年生なりに程良く経験もしてきたつもりだし、これからだって色々あるし。
「これがいいきっかけになるかもしれないでしょう?」
それに、人並みどころかそれ以上にモテてるっていうのも、自分で言っちゃうけどなんとなく分かる。
「デートしましょうよ。ね?」
それでも、こんな押し付けがましい女は嫌いだ。
………
半ば強引にスタンに連れられてやってきたのは校舎の外にあるテラスだった。そこに居たのは俯くウェンディと打って変わって明るい表情のベーベ。自分達の方へ歩いてきたスタンを見るなり、嬉しそうに彼へ手を振ったウェンディ。僕はベーベを見るなり全身に力を入れて身構えた。
彼女はまさしくトラブルメーカーで恋多き女、悪く言えばSuper Bitch。ベーベの気紛れで小学生の時にされた事を忘れるはずもない。
「…僕らの手に負える相手じゃないよ」
スタンの耳元でそう囁くが、それはスタンも同意見らしく、無言で頭を左右に振った。もうこうなってくるとただ面倒臭い。
「カイル、お願い」
擦り寄ってくるベーベは、やはり周りの女の子達とはアタマ一個分抜けていて、小学生の割には大人っぽく出来上がっていた。
「一生のお願いなの」
彼女は可愛い、確かにそれは認めよう。いい匂いがする、それも認める。柔らかそう、それもだ。あとこれは大きな声で言えないけど、胸も大きい。
「ねぇ、お願いって言ってるでしょう?」
でもそれを全部吹き飛ばせるほどの女王様気質が、僕はどうしても苦手だった。その上、女女していてどうにもこうにも女の中の女のウェンディを遥かに超えて、手っ取り早く言うと最早関わりたくない。
「早く行きましょう」
ベーベは僕のトラウマだ。
「僕は行かない」
大人しい女の子を好きになったのも、彼女のおかげだ。
「え?何を言ってるのよ」
おかげ、なんていい言葉じゃダメだ。彼女のせいなんだ。
「用事があるんだ」
眉を顰めたベーベだが、僕も同じく顔を歪めた。
「そうよ…ベーベ、やっぱり急過ぎるわ」
そして珍しくウェンディが助け舟を出してくれた。だがそれっぽっちで諦めるベーベでは無い。それよりも、女達の隣で気の利いたことも言えずボーッとこっちを見てるスタンのアホ面ったら。
「どうして?用事ってなに?」
「なんでもいいだろ。とりあえず僕は行かないから」
「用事を言いなさいよ」
「なんだよ、言ったところで行かないぞ」
僕に突っかかってくる彼女には呆れた。僕のこと好きなんじゃないのか?これじゃあまるで、ケンタッキーのチキンが小さいって店員にキレるクレーム女だ。
さすがに鬱陶しいなと思いつつ深い溜息をつき、顔を上げた僕は前を歩き出す。すぐさまベーベが僕を呼び止めるが、肩を掴んだその手を振り払った。
「いったぁ…なによ!」
ついてくるなと一言吐き捨て歩き出した僕の前に現れたのは、カートマンとXX。僕は思わずその場に立ち止まってしまう。
何故か、彼女も僕と同じような顔をしていた。